「きみが来た場所」 喜多川泰

「母さんのコロッケ」に、「Another Story」を継ぎ足したもの。「母さんのコロッケ」をすでに読んでいるのであれば、とくに読み返す必要は無いかもしれない。

とは言うものの、もう一回、読み直してみた。「大人になって仕事をするようになると、大切なのは仮説と検証の繰り返しだ。学生時代に手に入れた、与えられた知識を入力する能力なんて、ほとんど役に立たない。新しいことを生み出すために仮説を立てる創造力と、それを実行に移す行動力。出てきた結果を検証する分析力に、そこから得た学びを使ってさらに新たな仮説を立てる継続力。」それを子供のうちから身に着ける塾を作ることができれば、きっと多くの人に喜ばれるだろう、という著者の記載は、実際に学習塾を経営する喜多川氏の思いがこめられている一小節だろう。

「きみが来た場所」というタイトルは良い。前作「母さんのコロッケ」は、どうも作品との結びつきが弱い、という気がしていた。両親、祖母、祖父、と時代をさかのぼっていくと、10代前は1024人。30代前(織田信長の時代?)だと10億人。その中の誰か一人でも欠けたら、今の自分は存在しない、と言っている。

一方で、私は思うのですが、その中の組み合わせが変わっても、自分という人間は存在していただろう、と思います。例えば母が、別の父と出会い、私を産んだとしても、姿や形や性格は違えども、もっと根本的な何かがそこにあり、別の形で同じ意味のことを言ったり、行動していたり、同じく迷惑?をかけていたのではないか、と思う。検証できないことですが、人はそれぞれのタイミングで精一杯考え、行動し、その結果が現在であれば、気持ちを楽にして受け入れることができるような気がする。

ソフトカバーになっていたり、挿絵がホンワカとした雰囲気を醸し出していたり、「母さんのコロッケ」を購入していないのであれば、こちらを買ったほうが、気軽に読み返すことができると思います。これはそれぞれの時代の父親が主人公の物語だけど、「Another Story」の追加によって、まだ父親ではないけど、次の世代を担う人物たちへの巻き込みに成功している。広く男性の読者にとっては深みのある作品ではあるが、女性の読者にとっては、どのような印象を持つのかな。

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