鬼平犯科帳(一) 池波正太郎

池波正太郎さんの代表作。2017年は「鬼平」誕生50周年だったようで、これを機会に小説が「決定版」として新装され、字も大きく、振り仮名も付くようになった。小説の舞台が、江戸時代の本所から深川にかけて、つまりは現在の墨田区と江東区にかけての一帯であることも、親近感が沸いてくる。江戸時代の盗賊たちに「鬼の平蔵」と恐れられていた、火付盗賊改方長官、長谷川平蔵が活躍する、時代劇小説だ。

この記念すべき第一巻では、8話の物語が綴られている。初めのうちは、時代劇小説・・・というより、池波さんの文章に慣れていないこともあり、やや読みづらく感じるかもしれない。しかし、読み進めていくうちに、この文章の調子だからこそ、この非常にアクの強い登場人物たち、愛すべき小悪党、人情味のある人たちのやりとりに、魅了されたように引き込まれていくのだから、不思議である。

主人公である長谷川平蔵も、43歳であり、小太りの中年おじさんというような描写で、一見するとヒーローっぽくない。しかし、深い洞察力や、昔からの悪党がらみの人間関係、人情の厚さといった、昔ながらの渋いかっこ良さが、現代の中年のおっさん(私も含む)たちは、大いに共感してしまうのだろう。

真(まこと)の盗賊には、モラルがあるという。一、盗まれて難儀するものへは、手を出さぬこと。一、つとめをするとき、人を殺傷せぬこと。一、女をてごめにせぬこと。こうした金科玉条を守る大盗賊や、少なくともそう有りたいと思う小悪党たちは、鬼平の周りに集まる。

鬼平の敵となるのは、そういった矜持を持たない、血も涙もない本当の悪党たちだ。読者として、わかりやすく思い入れができる。同じ年配の、左馬之助とのやり取りも面白い。詰まるところ、この小説が面白いと感じられるのは、立派におっさんになった、ということなのかもしれない。

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