超高速!参勤交代 リターンズ 土橋章宏

往復で「参勤交代」というらしい。「5日で参勤」の難題をやりきり、命じた老中の顔を潰した湯長谷(ゆながや)藩の面面はのんびり帰路につくはずだった。そこへ老中が国許へ2日で戻り、さらに江戸城天守閣再建の沙汰を下す。絶体絶命の窮地に陥った藩主らは智恵を絞る・・・というあらすじだ。地元から江戸までが「参勤」、帰りが「交代」。大体、1年間程度、江戸にいて、国許にも1年間。単身赴任というものは、江戸の昔から日本人のDNAにインプットされてきた文化なのかもしれない。

リターンズ、という副題が、映画のようでいて、ちょっとクールで、エンターテイメント風だ。初刊での副題「老中の逆襲」よりも、すっきりとしている。もともと、このお話は、脚本作品なので、映画と小説がほぼ同時進行で作られたようだ。映画のほうは、以前に、出張の飛行機で見たことがある。往路に「超高速!参勤交代」を観て、復路に「超高速!参勤交代 リターンズ」を観た。ちょうど往復だったので、「国許へ早く帰る」という気持ちも重なり、より感情移入できて、楽しめた。あの時代に飛行機があったなら、と思った。

本作品では、湯長谷への帰り道、老中が放った尾張柳生藩の強敵である「柳生七本槍」が次々と立ち向かう。戦闘シーン、立会いの場面が、前作と比べて非常に多くて、楽しめる。忍術やら、剣術やら、変わった武器が次々に登場し、展開にまったく飽きが来ない。たまにはこういった、痛快アクション小説も面白い。(といいつつも、戦闘場面の小説を読むことが多い気がする。坂の上の雲とか、壬生義士伝とか。「ときどき戦闘」に改題しようかしら)

本作品で強敵として、主人公ら一行に次々と襲い掛かる柳生の面々も、複雑な事情を抱えている。闇の世界で生きてきたが、表舞台に出たい。柳生藩として認めてもらいたい。湯長谷藩を取り潰せば、その代わりに藩となれる。敵側の心情に関する描写は多くは無いけれど、主人公らと同じく常日頃から剣術を磨き、仲間たちのために奮闘する姿に、同情してしまう。それだけに、陰で糸を引く大ボスに対する反感が強くなる、という気持ちが高まってくる。

著者である土橋章宏さんは、もともとは脚本家であるが、面白そうな時代劇小説を次々に刊行している。本格的な長編時代劇小説は少し敬遠してしまいたいと思う読者にとっては(私は司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」を読み通すのに3ヶ月くらいかかった)、時代劇小説の世界への入門として、とても読みやすいので、気楽に手に取れる。日本史を勉強するための副読本としても?面白いかもしれない。

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