「扉を開けろ」小西忠禮の突破力 高久多美男

読み進めていくうちに、フランス、特にフランスの人々に対して、とても興味を持てるようになった。今まで遠い国の人種だったのだが、一気に身近になった。

海外で仕事をしたいということに興味を思っている方には、ぜひ読んでいただきたい。この本は、あなたの心の風景を拡張し、ふつふつと湧き上がる未来の可能性に対する情熱の源泉になるだろう。この本は、フランスの名門、リッツホテルで、初めて給料をもらいながら(研修生ではなく、プロという意味で)働くことになった、しかも人生の後半を大胆に転回した、小西忠禮さんの一代伝記である。

小西忠禮さんは、両親は戦争で無くして、年の離れたお兄さんのところにお世話になり、新聞配達、念願の高校、バレーボール部、松下電工(パナソニック)の誘いなどを経験しつつも、まったく見知らぬ大地であるフランスへ、片道切符の船旅でわたり、誠実な仕事に対する姿勢で頑ななフランスの心ある人々に受け入れられながら、夢にまで見たリッツホテルの料理人として認められることの奇跡、素晴らしい人たちとの出会い、努力の結実が記載されている。

ものすごく前向きな人、それが小西忠禮という方のようだ。今はホザナ幼稚園の理事長をしている、という。30代という、もっとも何かに挑戦したいときに、本来の料理人という道ではなく、幼稚園の給食担当という職を選んだという小西忠禮さんの勇気には敬意を表したい。そのときに求められた役割を、着実に果たすことによって、そのあとの道のりが定められていく、ということを体現されている。

小西忠禮さんが、若くしてこのような信念を持たれた原因のひとつに、教会に通い、源八親父との出会いが重要な役割を担っている。聖書に記載された言葉を踏まえて、自身が定めた10か条。そして、それを実践しつつ、信じられないほどの早朝に起床し、仕事に対して熱意を注ぐ。このような「習慣」こそが大事であり、これが素となって、小西忠禮さんをしてフランスの方々に受け入れていただける素地であったという気がする。

この作品は、伝記以外にも、著者によるフランス料理と日本料理に対する比較が巻末に述べられている。大変に興味深い。この著者と、小西忠禮さんの人生、この二つが調和できたからこそ、この作品が生まれたのだろう、と思わせてくれる読後感だった。

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