中国の無人探査機が、2019年1月3日、月の裏側に世界で初めて着陸した。中国の宇宙開発は、どこまで進んでいるのだろう?そんな疑問に答えてくれるのが、奇しくも2019年1月に発行された、本書である。込み入った専門書ではなく、状況を平たく説明してくれているので、読みやすい。
1950年に始まった朝鮮戦争では、参戦してきた中国に対して、米国のマッカーサー元帥は、「原爆を中国に落とそう」とも考えていた、とか。それに対抗するため、毛沢東は「両弾一星」つまり「原爆、水爆、人工衛星」を作ろうと考え、ソ連の技術を参考に、自力で作ったのが1960年頃。一方、その頃には、すでに米国は月面へ人を送り込んでいた。何とも壮大な競争だ。
日本の小惑星探査機「はやぶさ2」のほうが技術的に高度だとか、今さら月を有人探査して何をするのだ(米国は中止した)とか、色々と意見はあるだろうけれど、テーマが「宇宙開発」だけに、ロマンだとか、面白そうだとか、そういう気持ちの方が遥かに強く、あらゆる疑問を吹き飛ばしているような、そんな感じもする。
本書では、宇宙輸送、宇宙科学、宇宙利用、有人飛行といった観点から、各国の宇宙科学技術力を比較する試みをしている。百点満点でいうと、米国が94、欧州とロシアが60台で、中国が51.5、日本は53、という。中国は遅咲きで、2000年頃から本腰を入れ始めた。小型かつ低軌道の衛星の打ち上げ回数では米国に迫る(中国:2年で約40、米国は約50)。主な顧客は東欧の中小国だが、今後の一帯一路計画もあり、実績を積める機会は十分にありそうだ。
ただし、実績、今後ともに、宇宙分野では、米国の力が、圧倒的だ。宇宙開発予算を見ると、2014年の内閣府データによれば、米国NASAがトップで約4.5兆円、欧州が約7000億円、ロシアが約3000億円、日本が約3000億円、中国が約2000億円。
米国と言えば、1961年から1972年にかけて実施され、全6回の有人月面着陸に成功した「アポロ計画」。1969年にアポロ11号で月面に着陸したときの映像は、衝撃的だった。他にも、スペースシャトル計画。事故による死者や、コスト高騰により、今では中止しているが、有人シャトルで往復するという発想は、当時は画期的だった。ハッブル宇宙望遠鏡。大型バスほどの大きさの「望遠鏡」が、約30年前の1990年から、地球の周りを回っている。大気の影響を受けずに映し出される宇宙の星々の美しさは、多くの人々を魅了してきた。
なぜ、高い費用をかけて、わざわざ宇宙に行くのだろうか。アポロ計画で用いられた予算は、当時の米国政府予算の約1割に相当した、という。社会保障問題、貧困問題など、優先すべき政策は、山積みのはずだ。これは「なぜ日本は費用のかさむオリンピックを主催するのか」にも通じる疑問だ。
アポロ計画は、関連技術の発展に拍車をかけ、特に電子工学や遠隔通信、コンピュータなどの分野において大きく貢献した。それらは関連産業へ波及し、例えば、医療における遠隔治療技術などにも繋がったのだろう。
何よりも、宇宙には、夢がある。望遠鏡を通して遥か遠くの星々を眺める。その光すら、地球に届くのに数分かかっている。光の速さなんて実感できないけど、そんな現実から離れた世界が、すぐ頭の上に無限に広がっていること自体、ロマンだ。(諸意見はあると思うけど。)
失礼。感想文としてはまとまりがなく、宇宙のように拡散してしまったが、中国は開発予算が増え続けており、国威発揚のためにも、壮大な計画が立てられている。面白そう、という気持ちだけでも、十分である。日本と中国で、開発競争に勝ったとか、負けたではなく、単純に「人類」として、素晴らしい成果が上がったのならば、純粋に喜べるのが、宇宙という科学技術領域の魅力なのかもしれない。