鬼平犯科帳 四 (池波正太郎)

シリーズの4作目。この一冊には、長谷川平蔵の周囲の人物たちの活躍にスポットを当てた作品が多いように感じられる。長谷川平蔵自身は、あまりにも何と言うか、過去の生い立ちも含めて、揺るぎなく完成した主人公で、隙が無い感じだ。「剣客商売」の秋山親子は、それぞれ長短ありバランスが良く、読者としても、気持ちを映しやすい感じがする。魅力的なキャラクターが揃い始めることで、鬼平犯科帳という、やや殺伐としたテーマの上にも、色採々とした花が咲いてくる、ようでもある。

「霧(なご)の七郎」では、上杉浪人という、相当に強いのだけれども、どこか間の抜けている、滑稽な中年剣士が登場。まじめだけど、どこか抜けている、という、小説的にはとても愛される人物が登場する。この話では、長谷川平蔵の息子、辰蔵宣義(たつぞうのぶのり)も活躍する。目白の私邸を預かるが、遊び好きで、剣術も弱いが、どこか肝が据わっている。

「血闘」では、おまさ、という、30前後の女性が登場する。密偵として活躍するが、平蔵を若い頃から慕っていたようで、その後の作品でも、たまにぎこちなくも感じる二人の関係が、見ていて微笑ましく感じる。平蔵の妻である久栄の観察眼も、なるほど、と思わせられるものがある。

ストーリーの終盤局面では、いくつかのパターンがあるが、やむなく悪の片棒を担ぐことになってしまった者に対して、公平でなおかつ人情みのある巧みな判決を行うことが少なくない。「これにて一見落着!」とまでは、言い切っていないけれど、読者が頷く結末により、読後感が爽やかである。次なる物語への、良い複線も、張られている。

ただ、金銭価値については、揺れている。「霧の七郎」では、百両が「現代の実質的な価値でいうと七百万円にも相当」となっている。一方、第3巻「兇剣」では、「四百両といえば、今の二千万円」とあり、これらには約1.5倍の開きがある。

そこで調べてみたのだけど、この小説が書かれたのは昭和44年で、当時は1ドル360円、で固定されていたものが、昭和45年から変動性に移り、プラザ合意(昭和60年)までの間で、ほぼ半分まで下がっている(円高になった)。こうした、通貨の価値が大きく変動した時代を経て、新装版、決定版などに再編集する過程で、やや修正があったのかもしれない。

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