スマイリング!岩熊自転車 関口俊太(作:土橋章宏)

「超高速!参勤交代」をはじめ、楽しい切り口で時代小説を手掛ける、土橋章宏さんの作品。今回のテーマは、自転車レース「ツール・ド・函館」を舞台に、函館に暮らす孤独な中学生・俊太と、かつて夢を追いかけていた「岩熊自転車」の主人(おっちゃん)の物語だ。

地元・函館で開催されたロードバイク(競技用自転車)の大会をきっかけに、ロードバイクにあこがれていた俊太だけど、父は失踪、母は水商売で多忙、お金も愛情にも恵まれず、一人ママチャリでトレーニングする毎日。そんなある日、岩熊自転車という自転車屋の店長との出会いが、俊太を変えることになる。

岩熊自転車のおっちゃんも、この物語の主人公だ。人は出会いをきっかけに、人生を切り開いていける、ということを再認識させてくれる。おっちゃんの言葉の一つ一つがまぶしい。「夢と仲間さえあれば男はそれで十分。」「夢はかなうものじゃねえ。自力でかなえるもんだ。」

生きる価値を見失いそうな俊太への言葉。「自分の価値を誰かに決めさせるのはやめとけ。相手がたとえ家族でもな。」似たような言葉で、コンサルタント時代の上司から励まされたことがある。上級コンサルタントからの審査で低評価だったときのこと。自分の評価なんだから、他人に任せるな。励ましの言葉に、心が温まった。

そんな「おっちゃん」も、遠く離れてしまった息子に対して、きちんと親としての責務を果たせたのだろうか、と悩んでいる。「むしろ自分が俊太から何かを教えられているような気がすることも。」少年の純粋な言葉、そしてひたむきな心。すでに失ってしまったものに、気づかせてくれるような場面も。

私も自転車は大好きで、折り畳み自転車ながら結構なスピードが出る「BROMPTON(ブロンプトン)」で、たまに(年に一度くらい)は荒川サイクリングロードを上流に向かって小旅行などをする。本書を読んで、ちょっとしたツーリングに行きたくなった。次の休日は、晴れるといいな、と思う。

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