森崎書店の日々 八木沢里志

嫁さんから特別に面白いという折り紙付きで借りた文庫小説。神田の神保町にある古本屋「森崎書店」を取り巻く心優しい人たちの描写が軽快に楽しいです。サトル叔父さんの素直で深い優しさ、主人公の貴子さんの成長ぶりが眩しく。作者の八木沢里志さんは本作で「第三回ちよだ文学賞」を受賞し、映画化もされました。

旅が、作品のテーマの一つにもなっているようです。迷う貴子さんに対して、かつてバックパッカーとして世界を旅した末に、古本屋に錨を下ろしたサトル叔父さんは言います。「自分が本当に何を求めているかなんて、すぐに分かることじゃないのかも。一生をかけて少しづつ分かっていくものなのかもしれないよ。」自分の居場所を探すための旅。後半のもう一遍の続編「桃子さんの帰還」でも、大事なことは旅先で起こっているようです。

森崎書店は近、代文学専門の古本屋という設定。武者小路実篤の「友情」など、素晴らしい作品の文庫本が、物語の中で良い役割を与えられています。本書にでてくる「坂の途中」という小説は、インターネットでは見つからないのですが。。神保町では有名な喫茶店「さぼうる」も「すぼうる」という名前で登場します。昔、嫁さんと一緒にナポリタンを食べに入った記憶が、優しく蘇ってきます。心温まる作品です。

森崎書店の日々 (小学館文庫)
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