「心晴日和」喜多川泰

著者にしては、今回は女性が主人公という珍しい設定。14歳の彼女、28歳の彼女が、それぞれの時代で出会いを通して成長を遂げる様子が描写されている。友達同士の付き合い、という観点で見ると、女子の世界は、男子が創造するよりも過酷なのかもしれない。素直で優しい主人公が前向きに状況をよい方向へ変えていく。他者を変える、または他者を変えることに期待するのではなく、自分を変えることで、それが他者に影響していく。「言葉の力」の大きさを物語っている。女性の視点での仕事の成功、幸せ、といった話題にも切り込む。

ストーリーは、2つの時代を背景とする。心優しい主人公、結果は、やや出来すぎな感じも否めないが、著者は「自分から一歩踏み出す勇気を持って、自分の世界を広げようとする人には、必ず解決の糸口が与えられるのは間違いない」と言う。その点は同感だ。彼女が出会う魅力的な男性も格好いい。「困った人を見て逃げたという記憶が残ることが、俺にとって一生、耐えられないこと。」「事実はひとつ、解釈は無限」という男性。困難はチャレンジとして受け止めて、そういうことに気がつかせてくれた、ということに対して感謝するという。

物語で一貫して語っているのは、言葉のもつ力の強さと、出会いの大切さ。悲観的な言葉を発したり考えたりしていても、それを一番聞いているのは、自分である。それなら、たとえ今は気の会わない人でも、その人が好きだ、幸せになってほしいと考えれば、そのように変わっていくという。「自分が頭の中で話している言葉が、今の自分を作っている。」

この作品とは別の話になるが、私(のんびり多摩川の私)が学生時代に滞在した、台湾の離島である蘭嶼という島に住む少数民族の話では、「悪口は槍である」という考えがある。他人の悪口を言うと、それはその人の心臓に槍のように深く突き刺され、心は血を流す。決して悪口を言ってはいけない、という考えが伝わっているそうだ。言葉の持つ力の強さは、諸刃の剣でもある。

自分だけ幸せになる、という世界は、どうやら難しいようである。自分とは、周りの人々との係わり合いの中に存在する。周りの人々が幸せになるように考え、行動することで、何倍もの力が発揮される。そのように考え、行動できている人は、とてもまぶしい。タイトルにしても、その語感と、作中での取り扱い、最後の結びも、素晴らしく適合している。著者の作品の中では、もっとも良いタイトル付けではないか、と思う。

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