シリーズ第9段。表題作「待ち伏せ」は、小兵衛が四谷に道場を開く時に資金援助もしてくれた恩人、若林春斎との因縁を巡る展開。人は多くの顔を持っている・・・という。人間の本性をテーマに、愛憎入り組んだお話だった。一方で、三冬が身ごもっていることへの言及もあり、今後の話の明るい広がりが楽しみになる。
「或る日の小兵衛」では、「小兵衛老人の大冒険」という副題を付けたいほど、不思議な体験に満ちている。幽霊に遭遇し、素浪人たちをやっつけて、暴れ馬を抑え、若い娘を担ぎ上げる。なんとも元気なご老人だ。話の中では、四十年前の、彼の青春時代も回想される。後半の、ちょっとした肩すかし的な展開も、面白い。
大治郎のほうは、第9巻では、人違いされて、斬りかかられる場面が多いようだ。「私を秋山大治郎と知ってのことか!」というセリフを覚えてしまうくらい。「剣の命脈」では、なんと、街角の物陰から、大治郎の胸をめがけて打ち放たれた矢を、刀で切り落としている。「そこは秋山大治郎である。鍛え抜かれた精神により・・・」という解説は、ちょっと行き過ぎな感じもするけれど、そこは小説の世界。天下無敵の大治郎の活躍、今後も楽しみに読み進めよう。(易占いにより長寿と判断された、小兵衛老人の活躍も!)