容疑者Xの献身 (東野圭吾)

この作品が書かれたのは、2003年6月頃。米英がイラクを攻撃し、自衛隊が派遣された頃だ。中国から新型肺炎SARSが流行し世界中に広がり、最終的には774名の死亡例が報告された。2020年の現在と比べて、時代の移り変わりを感じることができる。ミステリーのため、話の本筋に触れない範囲で見てみると…

例えば、隅田川沿いにブルーシートを敷いて生活している「六十歳以上、白髪混じりの髪を後ろで縛っている」ホームレスの男性に対して、「あの年齢では、仕事を紹介される可能性はゼロに近いだろう」という描写がある。2020年の現在では、警備員は60歳以上の割合が4割を超えている。柏耕一さんの著書『交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます』が面白い。

また、家庭内暴力の末に離婚した前夫が元妻のアパートを強引に訪問する場面では、「別れた女房に会いに来て何が悪い。」と言っている。諦めてドアを開ける元妻に、警察も助けてくれたことは一度もない…と回想させている。配偶者暴力防止法(DV防止法)が施行されたのは2014年だった。

最後まで緊迫した展開が楽しめる。今では街のあちこちに監視カメラ…じゃない、防犯カメラがある時代。推理小説に登場する小道具も、時代とともに変わっていくのだろう。シリーズ三作目。他の作品もぜひ読んでみたい。

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