若くして大会社の社長に抜擢された40歳のジョン・ハーディング氏は、生まれ故郷のボーランド市へ、妻と子を連れて、移住する。「故郷に錦を飾る」とは、このことだ。地元の人たちに最大限の祝福を受け、幸せの絶頂にある中で、交通事故で妻と子を失ってしまう。
人生の全てに絶望して、自殺すら試みる日々の中で、幼いころからの親友から、野球チームの監督になってほしい、と懇願される。そこでで、野球のセンスがなく、全くヒットを打てない少年、ティモシーに出会う。この少年、そして野球チームの少年たちとの日常の中で、自身も立ち直っていく姿が描かれている。
オグ・マンティーノの作品を読むのは2冊目だが、前回(世界で一番の贈り物)と同じくらい、素晴らしい物語。涙無くしては、読み進められない。決して電車の中で、とくに後半部分を、見開いてはいけない。
この作者の物語は、明らかに読み手に対して、人生をより良く生きるためのヒントを与えてくれる、人生啓発書であるが、格言めいたことを押し付けない柔らかさがあるのが特徴だ。この作品での、魔法のキーワードは、以下の二つしか出てこない。
「毎日毎日、あらゆる面で、自分(僕ら)はどんどん、良くなっている!」 フランスの精神療法の祖、エミール・クーエ(1857-1926)による自己暗示のメッセージの一つ。毎日数十回、これを繰り返す治療法で、さまざまな病気が治っていったそうだ。「自分」のところを、他の人の名前に変えれば、その人に対する前向きな気持ちが芽生えていくような気持ちにもなる。
「決して、決して、決して、決して、決して、あきらめない!」20世紀の英国の首相「ウィンストン・チャーチル」による言葉。常に努力する姿勢の大切さ。作品中では、少年たちが、野球の試合にあたり、ティモシー少年に触発され、声を合わせて応援する。
また、身近な人が亡くなったことにより心が沈んでいる人に対する言葉として、「元にいた場所に帰っただけ。私たちも、いずれそこへ向かう。先に行って、待っているのだ。」が登場する。とても優しい表現だと思う。安らかな心で平和な日々を送る上で、信仰の大切さを感じた。
このような素晴らしい作品が、ブックオフで100円で購入できること自体、驚くべきことである。今までそれを見落としていたことを悔いてしまう。まだ素晴らしい作品が、私たちに出会うことを待っていると思うと、静かに嬉しくなってくる。