中古備品販売を生業とする「五郎」は、50代のオッサンだ。離婚暦あり、過去に色々な仕事に就いては失敗し人生経験も豊富、だが人情に厚く、あまり物事を冷静に考えずに直情型で動くような性格。あるとき、今は独立した30代の一人娘が、店の手伝いに入るようになり、「中古屋五郎」という走り書きのある二トントラックは、今日も埼玉を拠点として、閉店した店舗へ、買い取り交渉などに走る。(ほんわかとした表紙の人物絵とは、少しギャップがあるような気がする。)
原宏一さんの作品は、東京を中心とする下町を舞台に、人情の厚い主人公が、色々なトラブルを解決する様なストーリーが多いようだ。飲食店や販売店などへの徹底した取材に基づき、丁寧に物語に組み入れている。商品の仕入れ、店舗の配置、費用面のやりくりなど、中小企業をやりくりする社長の気持ちを良く表現している。本作品に登場する、スナック、キャバクラ、立ち飲み屋など、臨場感のある書きぶりで、その店に入ったかのような気分になる。
主人公の五郎さんは、ちょっと性格が破天荒すぎるような気もするし、お話ごとに彼に関わることになるマドンナ(というのかな?)たちも、分かりやすく典型的な設定であって、コメディー的なタッチもあり、安心して読み進められる。小説の紹介には「人情小説」とある。6話の短編小説は、それぞれに軽快に話が進んで、読後感も軽くて良い。
色々な事件が発生して、最終話を迎える。それぞれの思惑があり、色々とありつつ大団円、と思ったときに、結局は誰が悪いのか?という問いを発して、社会問題なのだというようなことを答えとして語らせるのは、なんとなく安易な気がした。もう少し強烈に、五郎さんのキャラクターを引き立たせることができれば、続編にもつながったのかもしれない。娘さんのほうがキャラクターとして良い味を出しているようだ。今後のスピンオフ作品も期待したい。
閉店屋五郎 (文春文庫)