「今月で閉店します。ご愛顧ありがとうございました。」脱衣所に張り出された貼り紙は、色々なことを語ろうとしていた。跡地には、8階建てのマンションができるようだ。松江という土地柄、駅からはかなり遠い。一之江商店街は、まだ地元ながらに元気さを保っているだけに、残念な気持ちがした。
広くてスッキリとした銭湯である。清掃も行き届いている。閉店してしまうのは、とても惜しい。これより狭くて、さほど小綺麗でもない銭湯も多く存在する(失礼)。
それでは、一般的な銭湯で見かけるのに、この銭湯にないものとは、何だろうか。まず、皆で鑑賞するテレビがない。洗面所のドライヤーがない。そして何より、銭湯の湯船の壁画が、ない。真っ白な壁が、青くて綺麗な高い天井まで続いている。昔はあったのかもしれない。でも壁の絵は銭湯の顔でもあり、なんとなく、寂しい気がする。
浴室から出て着替えていると、「キヨシさーん!出ますよ!」という声が、女湯の脱衣所から聞こえてきた。番台の女将さんが、浴室のほうかもしれませんよ、とアドバイスすると、声の主のご婦人の声が、今度は浴室の方から聞こえてきた。
缶ビールをいただく。アサヒスーパードライは250円と良心価格だ。閉店していく銭湯の天井を見上げながら、今までお疲れさんでした、と思いつつ、缶蓋をプシュと開ける。東京の銭湯の数は、平成29年12月末時点で562件だそうだ。平成19年には923件あった。大雑把に表現すれば、この10年間で、1,000件から500件へと半減している。諸事情あるのだろうが、なんとも寂しい。老後にいわゆるシルバーパスで銭湯に毎日通う、といったことは、あと10年もしたら、夢物語になってしまうのかもしれない。