司馬遼太郎の代表的な歴史大長編小説。明治維新を経た新生日本の姿を、秋山好古、秋山真之、正岡子規という3人の主人公の人生を追うような形で描く。単行本で全6巻、1巻あたり400ページのため、読み切れるか不安だが、息継ぎしながら読み進めていきたい。
さて、第1巻は、3人がまだとても若い時代を描く。明治維新から間もない日本も非常に若い。だが、国際状況は、だいぶせっぱつまっている。何とかして並み居る西欧列強と比肩すべく力を付けないと飲み込まれてしまうという緊張感が見える。生活スタイルも考え方も、これだけの短期間で柔軟に変化させてしまえることは日本の文化の強みであるような気がした。
作品を通じて、ロシア政府を何となく悪役に見せる工夫が随所で見られるようだ。主人公の一人、秋山好古は、やがては陸軍の将軍となり、日本の弱い騎馬部隊を率いて、ロシア軍の屈強なコサック部隊を打倒したことで有名。前半ではまだ若い秋山好古の姿が描かれる。やや対照的に、弟の秋山真之も、ゆくゆくは日本海軍を率いる将軍となるが、まだ荒々しい若さが描かれている。正岡子規は、やがては日本の俳句と短歌の歴史を学問として打ち立てる大功を果たすのだろうが、政治を志したり、思想家になりたかったりと、多くの志にあふれた若さが綴られている。そういった「青春編」が1巻なのだろう。
朝鮮半島や遼東半島をめぐって、日清戦争が始まる。朝鮮の独立なくしては日本は危ない、という危機感があった、と書かれている。いわゆる積極的な侵略戦争という雰囲気は、まったく見当たらない。史実は別としても、司馬遼太郎の歴史観なのだろう。やむを得ない状況で、精一杯、背伸びしないと列強に飲み込まれてしまうという危機感だけが日本を動かしているかのようだ。羨ましいのは、国のために立身出世し大志を立てるという夢を、高らかに誇れる時代だったようだということ。日本はいつのまにか内向きで停滞気味になってしまったが、この小説に吹いている風は、そんな気持ちを爽やかに吹き飛ばしてくれるような気がする。