「賢者の書」 喜多川泰

作者の代表作品といえる。この本から、この世界に入った人も多いだろう。「人生における大切なもの」を学び、「最高の賢者になりたい」と考える少年サイードが、9人の賢者に会い、色々なことを学んでいく。一章ごとに、人生について大事なことが記されていて、素晴らしい人々との出会いによって少年サイードが成長していく姿が生き生きと描かれている。

しかし、この本の主人公は、やっぱり我らが愛すべき中年の迷えるオジサン、アレックスの方だろう。40代から50代にかけて、忙しい毎日に疲れつつ、ふと人生を振り返る年頃の私たちに共感するところが多い。「人間は何度だって生まれ変わることができる。そしてその可能性はすべての人にある。」50歳を過ぎて生まれ変わろうとする姿は、多くの読み手に元気を与え続けて来たに違いない。諸説はあるが、65歳で起業し1000回断られてきたという、ケンタッキーフライドチキンのカーネルおじさんもそうだ。遅すぎることは無い。

章ごとにテーマが区切られているので、ふと思い返したときに、適当な章から読み始めても良いような内容だ。改めて初めから読み直してみると、やや教訓めいた点が多すぎる気がする。多くの人に勧めたいが、やや学ぶべき点が多すぎて、食あたりする人も居るのではないだろうか。その点、作者のその後の作品は、物語性を上手に語りながら、程よく大事なことを伝えることに成功しているように思える。そんな作者の初期の作品、思いの詰まったストーリーは、いずれにしても礎となるような重みを感じる傑作である。

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