任侠書房(今野敏) 非暴力系ヤクザ小説の傑作

任侠シリーズの第一作目。主人公の日村誠司は、小規模なヤクザ団体「阿岐本組」の代貸(だいがし)、ナンバーツーだ。「素人衆に迷惑はかけない」をモットーとした、いまどき珍しく任侠道をわきまえている。兄弟分の組から引き受けた、倒産寸前の出版社経営を始める。個性的な編集者たちも登場する。警察も巻き込んだトラブルが発生していく。

シリーズ二作目の「任侠学園」が西島秀俊と西田敏行の主演で2019年に映画化され、新作「任侠シネマ」が日経新聞の広告面に掲載されていた。以前に読んでいた「マル暴甘糟」にも同じ登場人物が出ているので、再開したばかりの図書館で借りてみた。

「ヤクザの最大の武器は暴力ではない。情報なのだ。そして、あれこれ悩まない。まず行動するのだ。」「揉め事の仲介はヤクザの得意技だ。揉め事を収めてそのカスリをいただく。それもシノギの一つだ。」

シンプルな方針を持った若手が、出版社を変えていく。「みんながそっちへ向かって進むという、道しるべみたいなもんは、簡単なもんでいいんだ。」変えていかなきゃ終わってしまう。中小企業の再建ストーリーでもある。

続編への布石のような言葉がある。「世の中、住みにくくなっている。世の中に、おおらかさがなくなっている。他人とちゃんと付き合うことができない。礼儀も知らなければ、気配りもない。」任侠シリーズを通して伝えようとしている、作者の本当の気持ちなのかもしれない。

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