中国科学院の104ある研究所の一つ、福建省では唯一。福建省海西研究所、ともいう。ちなみに40の研究所が北京に集中している。大体の感覚でいうと、研究は北京、商売は上海、というイメージが強いが、最近は深センが、ハードウェアも含めて相当な力をつけているし、中国各地でAIとかIOTの重点研究拠点が置かれるようになったので、構図はやや複雑になってきた。
中国科学院といえば、先日に発表された、ネイチャーやサイエンスといった科学専門誌の、研究所別の掲載数ランキング「Nature Index」において、世界一を記録した。2位がハーバード大学、3位がフランスのCNRSだった気がする。東京大学が8位くらいだった。
104の研究所の合計数なので、中国の大きさから考えれば、まあそんなものかと思うかもしれないけど、それらを統括的にまとめ、重点すべき研究戦略を打ち出して、政府方針にも合わせて予算を引っ張れる本部機能は、素直にすごいと思う。似た組織では、日本でいうと、理化学研究所が一番近い。理研の傘の下に、脳科学研究所や、材料、化学などの研究所が連携している。
中国科学院と、理化学研究所や米国NIHとの大きな違いは、その規模感を除けば、教育機能と、研究者顕彰機能を持つことにある。
中国科学院の職員数は、約七万人。その9割が研究者だが、それら正規の研究職員の他に、大学からの研究生(大学院生、ポスドクなど)がいて、正規研究職員の支援や、本格的な研究すら、している。日本の文科省が公表している、国別研究支援者の多さランキングで中国がダントツなのは、これが理由だ。研究生は給金すら得ている。その期間は単位にカウントされる。Win-Winの関係。
もう一つの、研究者顕彰制度は、「院士」を認定できる機関であること。院士になることは、中国の研究者にとって、一生涯のゴールであり、最高の名誉だ。地方によっては副大臣クラスの待遇が受けれる。例えば深セン市では、年金として数千万円が毎年、給付される。院士が在籍する研究機関や企業は、大変な名誉だ。また、2年に一度の院士総会では、政府に対して科学者の立場から意見を述べることができる。政治的影響力もある。
この院士という制度、中国科学院の創立期に参考にした、ソ連の科学アカデミーにあった、アカデミアンというものを取り入れたそうだが、中国の方で、良い発展を遂げたと思う。日本で言えば、ノーベル賞受賞者のようなものだろうか。院士は、中国科学院が設定した700人程度のほか、中国工程院の700人(こちらは技術系)もいて、外国人としては、日本人数人のほか、ビル・ゲイツなども工程院の外国籍院士だ。
ここ、福建省物質構造研究所は、研究者が1,000人くらい。福州ハイテクパークの中にあり、広い敷地を有している。試験設備も最新、しかも、ドイツやオランダ製に加えて、多くの中国国産の試験機も見られた。
恵まれた環境だけに、研究者たちの競争も激しく、低い評価が続けば、離職を進められるそうだ。評価指標は、主として、先に出てきた、著名科学雑誌への掲載数だったりする。早く芽の出る応用研究に偏りがちなのも、仕方ないのかもしれない。最近は変わってきてるかもしれないけど、じっくりと腰を落ち着かせて基礎研究に専念できる日本の大学の環境や文化は、日本の科学技術の強みなのかもしれない。