福建省は、亜熱帯に属する。福建省の省都が福州で、ここ福州大学は、福建省を代表する総合大学の一つである。土地面積2,652,387㎡というのは、大体、265ヘクタールと見て、東京ドームが4.7ヘクタールだから、「東京ドーム、56個分」と換算できる。広いことは十分に理解できる。亜熱帯にあるキャンパスには、まさに東南アジア的な風景が広がっている。Tシャツ短パンで、電機自転車に跨って広いキャンパスを颯爽と走り抜ける学生は、大房のバナナの背中に抱えていた。椰子の実をつけたような背の高い樹々が、湿気を含んだ暖かい風に揺られている。
福州大学は、中国の大学重点強化計画である「211工程」に含まれている。これは、1990年代に、当時の国家主席、江沢民さんが、北京大学100周年記念イベントで言い出したもので、「21世紀までに、100の素晴らしい大学を強化する」というもの。その後の数年間で、選定された一大学あたり平均して、約30億円の追加投資が行われた。学内のあらゆる設備が刷新されて、より魅力的なキャンパスになったそうだ。
参考までに、私は学生の頃、211工程がまだ実施されていない頃に、上海の復坦大学へ、1ヶ月間の短期留学に来ていたことがある。当時の学生寮は、なんというか、とても古風な感じで、学生食堂もさほど清潔ではなく、全体的にホコリっぽい印象を受けていた。ゴミもいろいろなところに落ちていて、野生のねずみを始めて観察したのも、あの頃だった気がする。
ただし、学食の食事は美味しくて、ナスの味噌傷めを、ボソボソとしたご飯にぶっかけた味は好きだった。人々も気さくで(ただし商店の店員のサービス精神は皆無だった)、学生たちとの間の呼びかけも「同志!」だった。散髪も3元(50円)くらいで、青空の下、バリカンで刈り上げられた記憶がある。現地で購入した20元の灰色の作業ズボン(結構、はきやすい)を着用して、久しぶりに帰国したら、成田空港で出迎えてくれた両親から、中国人に見間違われた思い出がある。
話がそれたが、当時のような、あまり見栄えの良くない大学状態では、海外の留学生も、中国の大学に滞在したいとは思わなかったかもしれない。「211工程」は、少なくともキャンパスの概観整備という点では、素晴らしい成果を挙げたように感じる。数年前に、たまたま上海への出張があり、当時は無かった地下鉄に乗って、同じ場所へ行ったが、跡形も無く「全とっかえ」したような、素晴らしいキャンパスになっていた。
こういう太っ腹な施策が打てたのは、当時は政府が国を上げての「科学技術と教育こそが国の発展の基本だ」という、「科教興国戦略」という立場を全面に出していたこともある。背景には、改革開放により経済は軌道に乗り始めたけれど、国造りを担う優秀な若手人材の育成が強く求められていた。なぜなら、当時の優秀な若手人材は(今もそうかも)、中国国内の大学や大学院にとどまらず、海外へ留学に行ってしまい、下手をすると戻ってこなかったり(米国に帰化も少なくない)した。
1990年代は、改革開放の初期に海外へ渡った人材も、立派な指導者層に育っていた頃。そんな彼らを国内に繋ぎ止め、かつ呼び戻すためには、大胆な財政出動が必要だった。「百人計画」なんてのも、この時期だ。こんな大胆な施策を打てるのも、中国が一党体制であるから、なのかもしれない。
さて、福州大学の産学連携の成果展示センターにあった、囲碁ロボット。AIは福州大学の研究者が作成し、手前のロボットが安川電機、奥のほうがオムロン製だ。碁石入れにハンドを伸ばして、碁石をつかむ様子が、いかにもロボットだ。たまに、少しだけ動作が止まって、考え込む様子は、何となく人間みたいで、愛嬌があって面白い。日本と中国、競争ばかりではなく、こういう、面白そうな研究課題を、一緒に作り上げられたら、両方の未来は、それこそ面白くなりそうだ。