書籍 中国科学院(林 幸秀)

続いて、中国科学院。ネイチャー指数(論文の非引用数)、近年はずっと世界1位。中国の104の研究所の集合体であり、中華人民共和国の建国とほぼ同時期に設立され、中国の科学技術を実質的に牽引してきた、総合的な科学技術機関だ。副題が「世界最大の科学技術機関の全容 優れた点と課題」とある。大学での講義原稿を作成するにあたり、とても参考になる書籍だ。

中国科学院の説明は、以前に福建省の施設を訪問したときに、備忘録として別ページで記載したとおり。正職員は6万9,000人余りだが、これに加え、傘下104の研究所、3つの大学に属する約4万5,000人もの大学院生が、研究の重要な一翼を担っている。

他の国の大規模な研究所との比較でも、中国科学院の大きさが理解できる。ロシア科学アカデミーが約4万人、フランス国立科学研究センター(CNRS)が約2万6,000人、米国最大の研究機関である国立衛生研究所(NIH)が約1万8,000人、とのこと。中国科学院の規模の大きさは群を抜いている。

中国のパソコンメーカー、Lenove(レノボ)も、中国科学院に発祥しているようで、一番の大株主のようだ。パソコンが売れれば売れるほど、中国科学院の収入になる。中国では産学連携が非常に進んでおり、中国科学院では1割程度だが、大学では平均すると3割程度なのだそうだ。日本では、まだ数パーセントなのだそうだ。

一方で弊害もあり、大学が産業界の「下請け機関」のようになってしまう、と懸念する先生方もいるそうだ。大学の先生方が、本来の興味に基づく基礎研究に没頭できなくなる。研究資金が大企業から来る場合、その意向に沿った、より市場に近い応用研究が多くなる。信賞必罰の文化により、比較的短期間で結果がでない場合、研究者は解雇されてしまう。結果が出るまでに何年もかかる基礎研究に力を入れるインセンティブが、働きづらいのかもしれない。

いずれにしても、この規模は大きい。著者が言うには、研究の質では、基礎研究を中心に、日本がリードしている点もあるそうだが、「量が質を追い越す」という視点も見逃せない、という。論文の被引用数だけでは分からない重要な点を、多角的に、かつ客観的に判断していくことが重要だ、と言っている。

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