中学生に教えたい、日本と中国の本当の歴史(徳間ポケット新書、黄文雄)

中国関連の感想文が3つも続いて恐縮だが、講義資料の準備のために頭の体操をも兼ねているので、ご容赦願いたい。3冊目は少し趣向が変わる。この書籍は、誰かに説明するためというよりも、別の観点や意見からの知識として、一度は目を通しておきたい内容を含んでいる。

ブックオフの100円コーナーは、週に一度は立ち寄る場所であり、新書や文庫が雑多なジャンルで並んでいる。しかも、そこそこに発売当時は売り上げのあった書籍たちだけに、気安く手に取るのは楽しい。

著者の黄文雄さんは、台湾の生まれで、日本が関与した近代のアジア諸国との戦争などを肯定的な、親日的な(これを親日というかは難しいけど)立場で、文章に表している。内容には拡大解釈もあり、「中学生に教えたい」とは思えないけど、気づきにくい「一つの観点」を提供してくれる。

日清戦争、満州国、日中戦争(というのかな)までの流れを把握するのには、読みやすくて参考になる。当時の日本のおかれていた立場や、列強により割譲されていく中国の全体像、ロシアの大胆な動向(クリミアのときも同じだ)など、肩肘を張らずに、読み進めることができた。司馬遼太郎の「坂の上の雲」で触れた世界。

隋、唐、宋、元、明、清という中国の歴代王朝、その後の中華民国、中華人民共和国と教わってきたけれど、それらは王朝であって、国としての統一感のある体制ではなかった、とも書かれている。でも、あの広い大地で、一つの王朝が国として機能すること自体、大したものだと思う。

日中戦争で「日本が戦った本当の相手は誰だったのか」という章など。いくつ者政府が乱立する当時の状態で、日本が戦ったのは、蒋介石の国民党軍だという。1937年の南京陥落後、「日本の占領地(38年からは重慶を脱した汪兆銘さんの南京政府)」「国民党政府」「共産党政府」。辛亥革命(1911年)で清王朝が倒れた後、内紛が続いて軍閥が跋扈する大陸で、複雑に入り組んだ事情を理解するには、この本だけでは到底、難しい。

歴史というのは、多面的に見ることができる。現代の中国が、そういった歴史を、自国(共産党)の利益を最大化するように「有効活用」していることは、多くの人たちが知るところなので、今さら何も言うことも無い。現代の日本だってそうかもしれない。それぞれの時代ごとに、当時の人たちは、それぞれの事情を背負いながら、精一杯、生きたのだと思う。

歴史を検証するには、史料が必要だ。インターネット検索に(さほどの)障害を感じない日本は、幸せなのかもしれない。外務省も積極的に文書を公開している。例えば、義和団事件の賠償金。外務省HPでは「4億5000万両(テール)の賠償金(日本への分配額は約3500万両)」とある。約3万人の兵士のうち、日本兵が2万人もいたのに、この少なさは、当時の欧米列強と比較した日本の国力だったのかもしれない。当時の日本の弱い立場を表現した、英国の風刺漫画も検索で見つかる。

この本には疑問に感じる部分も少なくないが、「あれ?」と思えるきっかけになり、深く知るために検証する習慣が身につくならば、中学生にも推薦できるかもしれない。

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