鬼平犯科帳 三 (池波正太郎)

鬼平犯科帳の単行本には、3通りがあるようだ。通常版、新装版、決定版。文字の大きさが異なる。決定版が、読みやすそうだ。高齢になって小さな文字が読みづらくなるに従い、決定版の方へと移っていくのかもしれない。ブックオフで108円で売られていたこの第3巻は、通常版のようだ。池波正太郎のファンの平均年齢よりは、まだ私は若めなので(勝手な判断)、十分な大きさの文字である。 高齢者にとっては優しいことに、その先には「大活字版」もあり、最後には「読み聞かせCD」なんてのも、ある。 人生の最後まで楽しめることが保障されているのが、池波ワールドである。

さて、第3巻では、長谷川平蔵が、一時的に「火付け盗賊改め方」を解任され、京都へ行く。平蔵と父親は京都で暮らしていた時代があり、お墓参りもかねた、小旅行。荷物もちとして、平蔵の部下である若手同心、愛嬌のある木村忠吾(うさ忠)が一緒だ。彼のおかげで、珍道中っぽい味が、よく出ている。水戸黄門だって、「うっかり八兵衛」がいないと、全く面白みの無い物語になるだろう。道中には色々な事件が待ち構えている。第3巻まるごとに、京都・奈良でのストーリーたちが詰まっている。

鬼の平蔵、というだけあって、悪人に対する拷問の仕方が、生々しい。一例を挙げるならば・・・と、紹介もしたいけれど、描写すると、これからいただく夕飯が美味しくなくなるので、それは実際にページをめくって読んでもらいたい。

鬼平犯科帳には、素晴らしい人生訓を、たまに見かける。どう考えても絶体絶命のピンチのときに、長谷川平蔵は、ニヤリ、と笑うことにしているそうだ。「思案から行動をよぶことよりも、まず、些細な動作を起こし、そのことによってわが精神(こころ)を操作すること」を体得している、という。「絶望や悲嘆に直面したとき、それに相応しい情緒へ落ち込まず、笑いたくなくても、まずは笑ってみるのがよいのだ。」とある。笑う門には、福、来たる。ピンチのときの平蔵の「ニヤリ」は、物語が好転し始める前の「兆し」だと思って良いかもしれない。

ちょっと困るのが、登場人物の名前が、多いこと。とくに、悪人だ。非常に趣向が凝らされていて、「登場人物カードゲーム」でも作れそうなほどに、溢れている。1作品だけでも、猫鳥の伝五郎、牛滝の紋次、その兄である闇鴨の吉兵衛、氷室の庄七、それを束ねる盗賊親方の虫栗の権十郎。一話に5人、全24巻で各巻6話とすれば、24x6x5=720人もの名前が連なる。それらが微妙に親類縁者や親分・子分の関係にあり、物語全体を、より味わい深い(やや複雑な・・・)ものにしている。「剣客商売」と一緒に読むと、さらに頭がこんがらがる。これを整理して書き分ける、池波正太郎先生は、さすがである。

タイトルとURLをコピーしました