上京物語 喜多川泰

代表作である「手紙屋」と「手紙屋・蛍雪編」の間に来るような作品だ。今まさに上京して、楽しい大学生活を始めようとしている息子に対する父親の気持ちが込められている。若い世代のみならず、ふと迷ってしまうときに、原点に立ち返らせてくれるような言葉が所々に散りばめられている。

(1)幸せは人との比較で決まる?・・・幸せの基準を自分自身で決めているか。同僚が20万円、自分が40万円の給料より、同僚100万円、自分50万円のほうが、人は幸せを感じないのだ、ということ。昨日の自分より一歩でも前進しているとき、人は幸せを感じること。

(2)今ある安定が将来まで続く?・・・安定志向になっていないか。「本当の安定とは、自分の力で変えられることを、自分を変えようと努力しているときに得られる心の状態」という。

(3)成功とはお金持ちになること?・・・お金が行動の基準になっていないか。
(4)やりたいことはお金になることの中から選ぶべき?・・・やりたいことをどうやって見つけるか。
(5)失敗しないように生きる?・・・失敗を恐れていないか。誰よりも多く成功した人は、誰よりも多く挑戦した人であり、だれよりもたくさんの失敗を経験した人。

価値観を持つために大切なこととして、努力という言葉ではなく「時間の投資」「財産の投資」ということ。頭を鍛えること、心を鍛えること。そして、それは筋力トレーニングのように、急にたくさんやれば疲れるだけなので、毎日少しずつ継続することが大事、という。

あまりにも大切な要素が多すぎて、なかなかさらっと読み進められないのが本書の難しいところだが、作者が他の作品を通して主張したい内容が詰め込まれている、非常に濃度の高い内容だ。消化不良を起こさないように、よくかんで食べてください、という注意書きが必要である。

一方で、作者は、実際の現実にある常識を否定しているのではない点にも気がつく。将来に成功者となりたいと意気込む若者に対する父親のメッセージとして、常識という殻の外側に出るということを進めている姿勢は、この父親としての挑戦でもあるようだ。父親としても大いに得るものがあった、という側面も見逃せない。感謝の言葉が出る点は素晴らしい。

さて、これで、この作者の作品は一通り読むことができた。その一番最後が、この作品だったことは幸いだった。巻末に推薦図書のリストがあり、他の作者による作品を紹介している。次の読書につながるので、ありがたい。大学生になった気持ちで、少しずつ、読み進めていきたい。

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