剣客商売 五 白い鬼 (池波正太郎)

剣客商売、第5巻。隣の貯金箱は、ズッシリと重くて、きっと30万円分の小銭が入っているのだと思う。すべて500円玉で貯金した場合、という特殊条件もある一方で、少なくとも50円玉さえ投入した記憶はない所有者の感想としては、まあ、そこそこだというところである。

さて、本作品では、四谷の弥七の働きぶりが良い。「暗殺」では、大二郎と二人で橋を渡っているときに、いきなり正体不明の悪者五人に襲われるシーンがある。弥七は相当に剣術の心得もあるのだが、ふと、戦闘シーンからは離脱してしまう。さすがに大二郎は大活躍、悪党の右腕を叩き落としたり(あっさりと残酷)、大川(隅田川)へ落としたり。いつも通り、捨て台詞を残して逃げざる悪党たちだった。

戦いに負けた悪党共が逃げはじめ、彼らの姿が闇に消えたとき、いままで何処に居たのか、四谷の弥七が大事の傍を擦り抜けていきながら、「お手伝いもいたしませんで…」と、くせ者どもの後を追っていくのだった。結果として、アジトを突き止め、解決に大きな役割を果たすことになる。

「手裏剣お秀」でも、根岸流の手裏剣と、蹄(ひづめ)という飛び道具の達人が、登場する。ただ強いだけではなく、こうした一芸に秀でた役回りをもつ人物たちが、剣客商売の世界を彩る。巻を重ねるごとに、物語は、面白くなってくる。

大二郎による三冬に対する恋愛感情が明らかになって来る「三冬の縁談」も、読んでいて、ワクワクしてくる。小兵衛も大二郎も、なすすべもない。いわゆる、偶然のきっかけが発生し、パタパタと面白い方向へとストーリーが展開。ちょっとした喜劇のような仕立てになっていて、心温まる一小節だ。一方で、最後に収録の「たのまれ男」。何とも切ない物語が繰り広げられる。

一作品ごとに、違った味わいを持ついるこのシリーズ。なかなか読み止まれなく、楽しい。

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