いきなり官能的な表紙から始まる第六巻は、ついに我らが愛すべき純朴なる若大将・秋山大二郎と、キリリと男装で清楚可憐なアイドル・佐々木三冬とが、めでたく結婚にたどりつくという、祝賀すべき一巻単行本である。いや、よかった。めでたい。
本巻でも、結婚に結びつくまでの間に、二人とも、結構大変なイベントを潜り抜けねばならない。頼りになる父親の秋山小兵衛は、嫁さんと小田原へ旅行に行ってて、不在。大治郎は自分自身の力で何とかして、この難事をくぐり抜けねばならない。まさに、一人だちのときだ。作者も、良い取り計らいをしてくれる。私たち読者も、一人前となった大治郎青年を正面から祝うことができる。作者も憎い演出を考えたものだ。
新婚生活がはじまると思いきや、大治郎を、いきなり大阪へ出張に行かせてしまう。しかも小兵衛をして、三冬さんに「嫁女どのは、少々、肥えましたな」なんて言わせる。どこか世間知らずな三冬さんの受け答えも、面白い。ほのぼのとしたやり取りに、心温まる。
この小説には、時々、性格や精神が壊れたような悪者が出てくるが、これに対して「金貸し幸右衛門」では、小兵衛が述べている。「戦国の戦乱が終わり、徳川将軍の下に天下泰平がきてよかったというものの、かえって戦乱絶え間もなかったときの方が、人の命の重さ大切さがよく分かっていたような気がするのじゃ。今は戦の恐ろしさが消え果てた変わりに、天下泰平に慣れて、生死の意義を忘れた人それぞれが、恐ろしいことを平気でしてのけるようになった。」
現代にも通じる、重い一言だと思う。「最近、関わりのない者に対して危害を加える者が多くなった」という話から続く言葉だ。平和という状態は、異常な犯罪や事件というものが、発生しやすいのかもしれない。賛否の論もあろうけど、真理を語らせているのは、作者の心である。
その一方では、欲望に負けて、つい足を踏み外してしまうことや、過ちを犯した、根は正直な人たちに対して、小平衛は優しいことばをかける。それが人間というものじゃよ、と。この第六巻は、そのような人間味に溢れた作品が比較的、多いように感じる。時を見つけては、読み返したい。