マル暴甘粕 (今野敏)

新聞の広告欄で、今野敏(こんのびん)の「任侠学園」が映画化される、というのがあった。魅力的なキャストが並んでいるけれど、任侠シリーズは小説で読んだほうが面白そうだ。時代劇と時代小説も、それぞれの良さがあるけれど、別の世界の作品のようになることもある。それはそれで良い。まずは小説から入ったほうが、先入観を横においておけるので、いくぶん気軽だ。

主人公の刑事である「甘糟達夫」は、35歳の巡査部長。北綾瀬署の、刑事組織犯罪対策課にいる「マル暴」だ。ちなみに「北綾瀬署」というのは実在せず、綾瀬警察署が、台東区は谷中という、なんとなく治安的にはさほど良さそうではない場所に存在する。下町だが、少し前までは日雇い労働者の方々が多い地区だったが(今でもそうかも)、最近ではバックパッカー的な外国人が多く見られる地域である。

ある日、多嘉原連合という暴力団の構成員「ゲン」が撲殺されたというニュースがあり、捜査本部が立ち上がる。弱腰の甘糟と、コワモテの先輩・郡原虎蔵、さらに警視庁本部から派遣されたエリート捜査一課の捜査員。この三人による、軽快な警察操作ストーリー。文章も読みやすく、話のあらすじも込み入っていないので、流れも理解しやすい。

面白いのは、主人公の甘糟刑事(作者の代弁?)の考え方。ヤクザというものは、良くも悪くも、日本の文化が生み出したものだ。昭和初期や60年安保のときは、さんざんヤクザを利用しておきながら、今は根絶しようとしている。ネイティブアメリカンへの虐待やアフリカ系移民の話も挙げている。かといってヤクザを肯定しているのではなく、反社会的な彼らの存在は「とんでもなく迷惑」と語らせている。

この作品は、そもそも「任侠学園シリーズ」からのスピンアウトのようだ。甘糟刑事は、気弱な刑事として、そちらに出場しているそうだ。映画の予告が目に入るその前に、図書館へ予約に行くことにしよう。

マル暴甘糟 (実業之日本社文庫)
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