剣客商売 八 狂乱 池波正太郎

小説「剣客商売」は全16巻。この8巻で、ちょうど折り返し地点だ。解説でも述べられているが、この巻では、様々な女性たち登場し、物語の重要な役回りを演じる。水商売に生きる女性、悪巧みに長けた女性、男性を手玉に取る女性。見た目は普通の生活をしているようで、もう一つの顔を持っている女性たち。池波正太郎さんの観察眼は鋭く、読み物としてもいよいよ面白い。

強い女性としては、手裏剣のお秀が、再登場する。懐かしい再登場だ再登場だ初の女剣士・杉原秀は、剣客商売の5巻「白い鬼」で初登場した。テレビ放送では昨年(2018年)の年末時代劇スペシャルで『剣客商売 手裏剣お秀』が放映された。比嘉愛未(ひがあいみ)が扮する「お秀」は、小説の方の、力強い女性イメージからは随分と遠いけれど。

ちょっとした夫婦の描写が面白い。「毒婦」にて。小料理屋「おもと」の板前の長次の叔父と、その老奥の会話が面白い。「女は化け物だ。あんなしおらしい顔をしていても、何を考えているか分からない。女は嘘の固まりだ。」それに対して「爺さま。このわしも女たがよ」「婆さま。お前は別だ。お前が化け物だったら、40年も一緒に暮ししていられるわけがねえ」「そんなら、いいがよ、うふ、ふふ……」六十を超えても、仲が良い夫婦の描写が、ほほえましい。

こちらも女性だろうか、「狐雨」では、剣客商売シリーズでは多分初めてであろう、幽霊が出て来る。結果としてお話は良い方向に向かうのが、良い。

サブタイトル「狂乱」の話は、何とも切ない気持ちになってくる。人生の好転と流転との間は、ちょっとしたきっかけであり、それがその後に長い影響を及ぼすことを、伝えてくれる。「女と男」「秋の炬燵」の悪役(とも言えないけど)たちも、初期の人生を踏み外したのは、ちょっとした(本人にとってはそうでもないけど)きっかけだ。願わくば、他の人に良いきっかけを与えられるような人間になりたい、と思う。

剣客商売 八 狂乱 (新潮文庫)
タイトルとURLをコピーしました