右側を空けて。一之江駅のエスカレーター、「おかえりハト」

エスカレーターのマナーについては、最近いろいろと議論のテーマにもなっているけれど、駅長が堂々と「右側を空けること」を推奨しているのは、ここ、一之江駅くらいかもしれない。

都営地下鉄新宿線の一之江駅は、地上を走る環七通りによって、見事に東西に分断されている。地下に降りて改札前を通らないと、反対側へ行けない(または大回りが必要)。「分断された」というより、駅ができた昭和61年当時、すでに環七が走っていたので、どうにも仕方がない。

環七による分断で、その魅力は半減されつつも、それぞれに個性的な特徴を持っている。一之江駅西口を「女口」、東口を「男口」と呼ぶ人もいる(とか、いないとか)。

ハトのいるエスカレーターがあるのは、西口。現地では超有名なベーカリー、焼き立てカレーパンが素晴らしく美味しい「リヨンスイーツ」、洋菓子店シャトレーゼ、地域唯一の書店「リブロ一之江店」などが集まる。開けたロータリーは明るい日差しに包まれていて、何となくおしゃれな雰囲気だ。

一方で東口は、持ち帰りもできる焼き鳥屋「かぶら屋、一之江店」、鶏ジロー、キタノサカバなどの飲食店、3店舗のパチンコ屋(西口には皆無だ)、「ラーメン二郎、環七一之江店」など、男性的な雰囲気を感じる。

さて、エスカレーターの話に戻る。張り紙によると、「エスカレーターの中ほどの蛍光灯の上に、ハトがいます。右側を空け、左側をご利用ください。一之江駅駅長。」

普通、駅構内では、ハトは糞を撒き散らし、設備の故障原因にもなる害鳥として扱われている。例えばJR山手線の駅では、ハトがとまる場所にトゲトゲの針山をセットしたり、縦横に針金が張り巡らされているような光景も、良く見られる。

「ツバメの巣があります」という張り紙は、よく見られる。日本人はツバメに対しては、なぜか寛容だ。ハトにとっては、「人種差別…ではなく、トリ種差別だハト!」という気持ちにもなるだろう。駅前をデモ行進しているハトたちも見かける。ハト・ライブス・マターズだ。

一之江駅の「ハトにご注意」の、別の張り紙には、「網を設置する予定があります」と書かれているけれど、張り紙の古さから見るに、長いこと、このままの状態であったことが分かる。苦情があれば対処せざるを得ない中で、地域の利用者の暖かさや、駅員さんたちに見守られながら、そっと息づいているようだ。

なお、これは上りのエスカレーターであるから、駅の利用者は、帰宅時に、見上げる機会が多いと思う。エスカレーターを上がった先には、それぞれの我が家が待っている。「お帰りなさい。お疲れさまハト。」という顔をしているように、見えなくなくもない。

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