新しい道徳、北野武さん。「いいことをすると気持ちがいい」のはなぜか、という副題が付けられている。数年前に話題になった作品だけど、「20%OFF」セール中のブックオフで86円だった。残暑、鳴き疲れたセミが地面をヨッコラセと這うように歩く気温の日曜日に、冷たいアイスコーヒーの喫茶店で、開く。総額500円で楽しめる。手軽な夏の気分転換。
北野武さんの本は、作品によって、一人称が異なる。「ビートたけし」著者の方は「オイラは」、この本は「俺は」と、書き分けている。言いたいことは同じようだけど、複数の本を読むことで、より多面的に理解できるようになる。
「はじめに」で、言い切っている。「言いたいことは一つだ。道徳がどうのこうのという人間は、信用しちゃいけない」。いろんな価値観があったほうがいい。一つの価値観で固まった社会はもろい。価値観は国ごとに違うし、同じ国でも時代とともに変わるものだ。
教科書で道徳教育として子どもたちに押し付ける事の間違い(子供たちの小性をブルドーザーでなぎ倒す)を指摘しつつ、いろいろな価値観を認めることの大切さを面白いエピソードに載せて展開する。その上で、コミュニケーションの円滑化など、道徳の役に立つ一面にも触れる。
最後の「道徳は自分で作る」では、向上神を持って、より良く生きていくために、自分でルールを作る事の大切さを紹介している。自由とルールを、自分で決める。ルールのないゲームは面白くないのと同じ。学校の道徳の本、少なくともあの教材は、自分なりの道徳を作る手本にはなる、と言っている。
道徳の教科書に限らず、巷にはビジネス啓発書、銭湯や電車内のマナー、社訓や社是など、色々な手本がある。それらは耳を傾けたり、守るべきものを多分に含んでいるけれど、息苦しさも時々に感じる。それは、生き苦しさ、なのかもしれない。これからは、(心の中で)ツッコミを入れながら、自分の道徳づくりの参考にしていきたい。