発刊された2015年当時に、世界で最も革新的な企業ランキングの五位に中国の企業がランクインした。「初めて明かされる、紅い巨人の素顔」「冬は必ずやってくる」という、説明書き。まるで現在の米中貿易戦争、次世代ハイテク争奪戦の始まりを予測するかのようなタイトルだ。
全世界160カ国に展開する多国籍企業。15万人の従業員のほぼ半数が自社株を保有するが、その社長である任正非は1.4%しか株式を保有しない、とある。残りを全て社員に分け与えた。(家族が保有しているのでは、という野暮な勘ぐりはしないほうがよい)その心意気は素晴らしい。
「恐竜がいつか死ぬことは誰もが知っている」という見出しに始まる本書は、この、任社長の思想を中心に書かれている。序章でいきなり「次に倒れるのはファーウェイか」といのも挑戦的で面白い。あまりインタビューにも登場せず、「貴州人」として孤独にも見える商人、任社長から感じ取られる信念を、物語的に書き連ねている。
ファーウェイは、主幹的な技術については買収を控え、基本的に自社で開発する。中国政府の資本を背負った「民族企業」ではなく、一つの国際企業として世界の(主に米国の)ルールで戦う。このやり方は、およそ中国の企業らしくない。効率を最大に重んじる中国精神に反する。自社に大学を置き、技術的を再教育し、新たな市場価値に適合させる。企業内には地下鉄も走っていると聞く。中国政府の補助を受けていない(実際のところは諸意見あるようだが)。この中国的でない企業が、中国を足場とした世界市場で、大きなプレゼンスを発揮していることは、とても不思議だ。
リーダーに関する、任社長の名言も多く掲載されていて、ちょっとしたビジネス啓発書でもある。「一人一人の人間には必ず違いがある。それらが同じ組織に集まるとき、最も頼りになるのはリーダーの寛容さなのだ。」また、過度な「革新」にも警鐘を鳴らし、むしろ保守の大事さを語っている点など、少し意外だった。「大胆な提案は奨励しない」という文化があるようだ。常に目の前の顧客を第一に考え、地道に広げていった実績を踏まえている。「花は五分咲き、酒はほろ酔い」だ。リーダーの慎重な姿勢が伝わってくる。 巻末の「ファーウェイの冬」 も、読み応えがある。
一方で、第10章の「7000人の集団辞職」で、マーケティング部の社員を対象に、辞職させ、希望者に面接を経て再就職させたところは、ちょっと記載が大げさな気もした。だが当時、社員達は次々に壇上へ上がり、「会社全体の利益のために個人を犠牲にすることに迷いはない」「私は進んでその礎となる」と口々に語ったそうだが、本当だろうか。何となく文化大革命のときの、自己批判スローガンを彷彿とさせる。
ちなみに。この書籍は、たまたま広東省のファーウェイ本社へ、会社の用事で赴いたときに、ファーウェイの方からプレゼントされたものだ。そのすぐ後に、この社長の家族の方が訪日する機会があり、全くの偶然に、思い出したようにこの本を読み返してみた。ご家族の方は、ひどい貴州なまりで、聞き取りに苦労したけれど、とても暖かい手で、握手してくれたことを覚えている。