新しい人生というものは、何度でも始められる。そういう気持ちにしてくれる本だ。作者の作品は、主に思春期の若者を主人公とするものが多いが、この作品は、青少年を対象にしたものではない。20代後半から30代、または40代に対して、いつでも新しいことを始められる、というメッセージである。
5人の登場人物は、十年前の自分が未来の自分に宛てて書いた手紙を読むことを通して、自分が素直な気持ちで実現したかった夢、抱いていた希望に気づく。そして自分自身からのメッセージに背中を押され、前に進み始める。主人公は45歳の中年であり、厳しい過去を経験した青年であり、5人の手紙を書いた人たちや、その周りの大切な人々である。
「いいか海人、よく覚えておけ。人間はみな、本人がその場に居なければその言葉が本人に届くかどうかをあまり考えもせず、つい、頭の中でふと思ったことをそのままに垂れ流してしまう、そういう弱さを持っているのだよ。」「ネットの書き込みだって同じだろうよ、きっと。だから、初対面の人に、いや、あったことも無い人に、『あなた、気持ち悪いんですけど』なんて、平気で書ける。」「だから、他人がどうこうじゃない。自分がそういうのを口にしない強さを持たなきゃいけないって、ただそれだけのことだ。な、いいこと学んだだろ。こういう僕もいまだ修行中だけどさ。」
いいことがあると、過去も変わる、という。「過去は変わらない。変えられるのは未来だけ。」という言葉は聴いたことがある。いわく、過去のつらい出来事を乗り越えられたからこそ、現在の自分がある。そう思える日が必ず来ると信じる。未来には、今の自分は、あのとき大変だった経験があったからこそだ、と思えるようになるそうだ。マイナスと思っていた過去も、必要な、輝かしい学びを与えてくれていたのかもしれない。