第一話目の「春愁」にて。秋山小兵衛の、若き日の悩みが綴られる。秋山道場を拡張して、大江戸における名門に仕立て上げようという野心もあったが、「そのためには、おのれの剣を磨くだけではすまなくなる。」諸家への働きかけ、世辞も言わねばならぬ、汚濁のふるまいもあえて仕てのけなくては。「日々に道場に出て、思い切り稽古をせぬことには、生きている甲斐がない。名利とは遠くなれど、剣術が好きだったから、立身出世の方はあきらめたのじゃ」と語る。そのくせに、息子の大治郎には、「お前の剣術は、いつになったら商売になるのじゃ?」などと言ったりもする。
第7巻の中では「徳どん、逃げろ」の話が一番気に入っている。主人公は、傘屋の徳治郎、通称「傘徳」さん。何となくコミカルに進んでいく。憎めない悪役の振る舞いや人情に思わず微笑んでしまう。後半の意外な展開には、心が温まる。
第7巻の中では「徳どん、逃げろ」の話が一番気に入っている。主人公は、傘屋の徳治郎、通称「傘徳」さん。何となくコミカルに進んでいく。憎めない悪役の振る舞いや、人情的なやりとり、心情の描写に、とても心が温まる。
「大江戸ゆばり組」では、深川の様子が語られている。江戸時代の深川は、江戸の「水郷」といってよいほどの風趣があり、一種の別天地のようだった。江戸湾の海に望み、町々を堀川が縦横にめぐり、舟と人と、道と川とが一体となった明け暮れが、期せずして詩情を生むような、イタリアのベネチアに匹敵する美しい水郷だったそうな。現代で言えばお台場周辺のベイエリアのようなものだろうか。今度、散歩してみよう。
「決闘・高田の馬場」では、物語が進むのにつれて、緊張の高まりを共感できる。「坊ちゃんがそのまま大きくなったような」殿様同士の意地の張り合い、古狸のような老中たちのやりとり、決闘剣士たちの緊張と、この作品シリーズの面白いところが、全て詰まっているようなお話だ。
第7巻は、比較的、ユーモアのある作品が多いように感じた。恨み辛み、血なまぐささといったものは少ない。旅先へ持っていくカバンの中に、手軽に入れておきたいような文庫本だ。
剣客商売 七 隠れ簑 (新潮文庫)