麻雀放浪記 1青春編 阿佐田哲也

もう何回、読み直したことだろう。「昭和二十年十月───。敗戦後まだひと月あまりしかたっていない、そんなある日、不忍池に近い部落の奥まった部分、警官も立ち入れなかったような場所に、ボロボロのシャツ一枚に戦闘帽という貧相な中年男が入り込んできた。」上州虎の後ろ姿が目に浮かぶようだ。

戦後の復興期における、まさにカオス的に荒廃した東京のドヤ街を舞台とした、ピカレスク小説(悪漢小説、悪者小説とも)の代表的小説。博打という非日常的な現実を生きる、常識的には「まったくしようがない男たち」が闘いを繰り広げる。(嫁さんの愛読書リストには、絶対に該当しなさそうだ。)

「チンチロリンさ。新時代だぜ。古いやつとはお別れだ。こいつは胴が廻りもちなんだ。どうだ、民主主義だろう。俺っちだって、生まれ変わったのさ。」上州虎、ドサ健、薄禿げ、鉢巻き、おりんに、チン六。まさに本能のまま、博打に翻弄されつつ、薄汚れにホコリっぽく生きる彼らの姿が、キラキラとまぶしい。

私たちは、時には、博打の勢いに酔いたい一方で生活の安住を夢見る上州虎であり、非現実的な射幸心に本道を忘れがちなチン六さんであり、おかまのおりんちゃんでも、あるのかもしれない。このろくでもない男たちの物語は、いつ読み返してみても、知識的や教養的には何の足しにもならないけれど、ひゅっと吸い込まれていくような気持ちになるのは、どこから沸いてくるのだろう?

麻雀放浪記 1 青春篇 (文春文庫)
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