麻雀放浪記 3激闘編 阿佐田哲也

麻雀放浪記は、戦後すぐの昭和20年から昭和40年くらいまでの期間を舞台にしている。青春編、風雲編では、「坊や哲」が若い力いっぱいに、博打の世界で活躍する物語だっったが、この第3巻では、長年にわたる麻雀の打ち過ぎのためか、肘が上がらなくなり、いかさまが出来なくなった所から始まる。闇の地下組織TS会から高利の金を借り、窮地に立ってしまう。

戦後の混乱期から抜け出し始めた日本社会も、背景にある。新しいタイプの麻雀打ち「鎌ちゃん」や、高利貸しの「勇さん」などが現れる。高級車で雀荘に来る。車の鍵をいくつもこしらえて、負ければ鍵だけおっぽりだして、逃げてしまう。「どっちに転んでも損にならないよう、工夫がしてある。つまり、彼らは博打を打ってるんじゃ無い。商売をしてるんだ。」

坊や哲は、そうしたニュータイプのギャンブラーたちに対して、反感を持つ。「俺たちはそんな真似はしねえぞ。俺たちは、無法者じゃなけりゃできないような、もっと手荒いことをやってやる。なァ、ドサ健。」

一方で、こんなことも言っている。「出目徳のおっさんのように、命まで賭けてしまう馬鹿はもういねえ。この頃の強え奴らは、みんな他に職ってものをもってるんだ。だから、安心して打てるんだろうな。」変わる時代の中で、坊や哲の揺れる心を、とても良く描写している。

満員電車での、坊や哲の行動が面白い。周囲で我慢している通勤族たちに反感を覚えたのだろうか。押されたのをきっかけに、「やる気か、野郎っぱち」と、うんと気合いを入れて、背中を揺すって、押してきた一団を圧迫したことから、「なんだ、此奴!」「非常識な、やっちまえ!」と、電車内で、袋だたきに遭ってしまう。ボロボロになったけど、ばくち打ちとしての凶暴さを忘れない自分に気がつき、「しかしなんとなく、いい気持ちだった。」と言う。

ちょうど、満員の通勤電車に揺られながらページをめくりつつ、こちらも、なんとなく愉快な気分になった。

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