「七つの試練 池袋ウエストゲートパークⅩⅣ」石田衣良

長いもので、これが第14巻目となるようだ。石田衣良が文芸春秋で連載している人気シリーズ。学生のころに読み始めて、最新刊が出るのを楽しみにしている。その時々の最新の社会事情を背景としたトラブルシューティングストーリーが、軽快で歯切れのよい文章に乗って展開されていく。作者の取材の観点は鋭い。現代社会の一面を知るための勉強にもなる。(次のテーマは「バイトテロ」だと個人的には予測している。)

文章の切り方が上手だ。全ての文章が「マコト」の一人称で語られる。その章ごとの特徴あるアイコンマークが、場面の移り変わりのときに、紙面に挿入される。暴力シーンもたまに登場し、「Gボーイズ」という「池袋の青少年たちのNPO」(面白い表現だ)の力に頼ることがほとんどだが、事件を解決に導く決め手は、いつも「マコト」のアイデアである。その点は、なんとなく「一休さん」のような展開だ。「とんち」で事件を解決。結果も「大成功」でない痛み分け的な場合も少なくなく、それが却って、軽やかな読後感を残してくれる。

今回の作品は、芸能界を巡る週刊誌スキャンダルの話、出会い系喫茶を舞台とした暴行事件の話など。作品の中では、池袋という街の持つ味わいが十分に活かされている。「渋谷は砂のにおいがして、池袋は土のにおいがする」という表現は面白い。もしも別の街を舞台とした小説になっていたら、登場人物たちの仕草も変わっていただろう。そうなっていても、この作者ならば、作風を自在に変えて見事に書き切るだろう、と思う。

石田衣良の作品は、本人によるコラム集のような書籍を除いて、全て読んだと思う。作品によって見事に作風を変えることができる、実力派の作家だと思う。愛憎の念が入り混じった泥沼のような作品や、上を向いて歩き続けるような清々しい成長ストーリーなど。だけどやっぱり、社会問題を背景にした若者が主人公の作品が、この作者の真骨頂だと思う。そういう意味で、「池袋ウエストゲートパーク」シリーズは、作者にとっても読者にとっても、最も適した題材なのだろう。最新刊の刊行は、半年ごとの楽しみになっている。

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