坂の上の雲 六 司馬遼太郎

第6巻の表紙は、これが旅順要塞を陥落させた、「28サンチ榴弾砲」というものだろうか。満州平野で展開されている日露戦争、双方の陸軍による激突は益々激しくなり、まるで現地で戦場を見てきたかのような説明ぶりが展開されている。

一方では、作者は「戦闘描写をすることが目的ではなく、新興国家時代の日本人のある種の能力もしくはある種の精神の状態について、そぞろながらも考えてゆくのが、いわば主題といえば主題である」と言っている。激烈な戦闘シーンばかりの内容では疲れてしまう。実弾戦闘だけでなく、日露戦争というものがどのように展開されていったのかを理解するためには、大局的な情勢を踏まえる必要がある。第6巻の中ほどでは、極東とは反対側の欧州側で展開された、諜報活動の紹介にも重点が置かれている。

「世界を攪乱したスパイ」として、明石元二郎という陸軍将校が登場する。彼は、帝政ロシアに反対する革命家たちに潤沢な資金を提供し、帝政ロシアを内部から崩壊させる仕事をした。歴史舞台の表に立たない活躍であるが、その効果は計り知れないほど大きかった、と言われている。

「ロシアは、なぜ負けたのか」ということが、明治後期であった当時には、新聞などで解説されなかった点を指摘している。日本の軍隊が強かったというより(むしろ補給線ふくめて弱かった?)も、小説を読み進めていくうちに理解できることは、明らかにロシア帝政が末期にあり内部崩壊があった、と理解するほうが正しい気がする。大正を経て昭和になっても、その解説と理解が進まなかったことから、昭和では日本の強さとして理解し誤った道へと進んだのだろう、という説明は興味深い。

日本海軍は、ロシアの戦艦を狙って砲撃を行うとき、日本の戦艦と間違わないよう、その姿形を識別しようとした。しかし、ロシア語の発音は難しいため、日本風に呼び名をつけたらしい。アリョールは「蟻寄る」、アレキサンドル三世は「呆きれ三太」、ボロジノは「ボロ出ろ」、ドミトリー・ドンスコイが「ゴミ取り権助」。また、昔のパチンコ店などで流れていた「軍艦行進曲」も、この頃に作られたようだ。こう言った挿話も面白い。

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