坂の上の雲 七 司馬遼太郎

表紙絵には、本格的に日露両軍が激突する、奉天での会戦が描かれている。日本陸軍は補給も十分ではなく、兵士たちも疲れ果て、精神力だけでここまでやってきたようだが、対するロシア軍は、健康で若い兵士たちや弾薬装備も十分にあるが、退却してしまう。これをロシア軍の対象であるクロパトキン一人の判断の誤りとして主に描いている。もしくは、彼をそうさせている帝政ロシアの末期的な機構に原因があるのかもしれない。

ロシア軍は退却の中で大きな犠牲を払い、クロパトキンは更迭される。国際世論は大きく日本の有勢を報じる。ここで興味深いのは、国際世論というものの影響力がこの時代には大きくなっていた、ということ。ほとんど借金で戦費を賄っていた日本にとって、外債の発行に大きく響く。また、短期決戦で有利な講和に持ち込みたい点でも重要だ。

奉天での勝利を報道する、日本国内の新聞が、「次はウラルを超えて露都まで」攻め上げよ、という、イケイケドンドンな風潮で国民の気勢を上げんとせしめている点は、著者は、いつの時代にも新聞の持つ、良くない点として書いている。それは政府の考えとは異なるものだし、日本の実情を客観的に表したものでは決してない。講和に向けた日本を取り巻く外交についても描かれている。日本がこれだけ懸命な外交活動を展開した例はその後の外交史でも出現していない、とまで言い切っている。

さて、残るはバルチック艦隊が東へと向かう、日露海戦だ。ロシア海軍の大将であるロジェストウェンスキーも、やはり優秀でないような描写が多い。まさに海戦がはじまる前夜。最初の「敵艦見ゆ」の電文伝達をめぐる宮古島の五人の青年の物語も興味深い。

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