剣客商売 四 天魔(池波正太郎)

池波正太郎の剣客商売も、第4巻まで、読み進めた。猛暑のお盆休みに、秋葉原駅、昭和通り口のカフェ・ベローチェで、アイスコーヒーを飲みながら(すぐに蒸発してしまう)。

一話目は、八百長試合がテーマのお話。老獪な剣士の秋山小兵衛が、そのあたりの大人の事情をやむなしと整理しつつも、昔の正々堂々とした剣客の気持ちが、今では玉石混交なるをもちたる心情を解説するに、「わしも大治郎のころには、あのようであったが、このように変わってしまった。変わるもよし、変わらぬもよし、ということさ」という表現としている所が、なぜか気持ちに残った。秋山小兵衛の、健やかなる老眼に光るものを、息子の大治郎は、確かに目にしていたようだ。

この小説表現の良いところの一つに、ただ単に「宿泊した。」というのではなく、「旅籠屋に、旅装を解いたのてある。」というのがある。旅装という、かしこまった旅支度を下ろして、やれやれ、風呂にでも入ろうか、という雰囲気が伝わってくる。四季の移り変わりを表現する言葉たちも、素晴らしい。読み返すごとに、新たな、こうした粋な表現に気づくようになる。

「融通が効きすぎる」父である秋山小兵衛を、その息子の大治郎が、旅先である箱根の湯治場から思い返す。 江戸を離れて、心情的にも距離を置いたからこそ、そういったことに気がつけるのかもしれない。旅というものは、少し離れた所から日常を見返せる良い機会でもあり、それは現代にも通じる貴重な経験であると思う。 「父ならどうするであろうか。」と思い悩みつつ、込み入った事件を、鮮やかに解決していく。剣客を商売とする、大治郎青年の成長を感じられるのも、本作品の楽しいところだ。

小兵衛の女房である「おはる」の言葉の純朴な響きが、ほがらかとしていて、良い。太兵衛という不思議な老剣士も登場する。登場人物たちが揃ってきて、この剣客商売という小説シリーズも、いよいよ安定的に面白くなってきた。一段落するのが、大変に難しい。

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