なぜ世界は存在しないのか (マルクス・ガブリエル)

大胆な問いかけのタイトルだ。新聞の日曜版にあった著者の紹介記事がきっかけで、随分前に図書館に予約した本が、届いていた。手に取ると重く、ページを開いても重く、読み始めるのには思い切りが必要。難しい言葉も多いけど、身の回りの日常的な出来事で、易しく説明てくれるのは好感的だ。

いわゆる小世界は、数多くあるけれど、そのすべてを包摂する領域、つまり全部を含む世界は存在しない。一つの輪を書いて、そこに全ての要素を入れることはできない。対象領域、意味の領域。

実在論の話も。魔女狩りの時代、為政者の恐れる心の中に魔女は確かに存在したが、実在はしなかった。存在したが、存在しない。宇宙は物理学の範囲では測りうるかもしれないが、それすらも私達が認識しうる一領域であると仮定すれば、章立てで解説する芸術や宗教といった領域と比較して、どれだけの重みを私たちにもたらすのだろう。

英国の宇宙物理学者、ホーキング博士の意見に対して、スパイシーなコメントをしているのも面白い。「知識人としてはかなり過大評価されているように思いますが」と前置きしつつ、ホーキング博士の言葉の一節「哲学はすでに死んでしまいました。現在も発展を続けている科学、とりわけ物理学に、ついてこられませんでした。」という言葉に対して、この本で取り上げている世界というものを宇宙と同一視している事に対して、疑問を投げかけている。

若いドイツの哲学者が分かりやすく丁寧に説明する最新の哲学講義は、当たり前と思っている身の回りの出来事に、新たな視点と刺激を与えてくれた。自然科学に対する過剰な思いを緩和し、哲学的な考え方による柔軟性、持続的な地球環境への配慮も垣間見える。

「世界は、自然科学の領域と同一ではない。」世界には、国家も、夢も、実現しなかった様々な可能性も、芸術作品も、私たちの思考すら入っているならば。それはものすごく広い。宇宙はごく限られた限定領域について過ぎない、という。宇宙より広い、私たちの世界。多くの読書や体験を通して、この世界とやらを広げられるならば、人生の楽しみも広がっていきそうだ。

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)
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