任侠学園(今野敏) 昨今の学校事情の理解にも最適

今回は潰れかかった私立高校が舞台だ。割れた教室の窓ガラス。壁にはスプレーによる落書き。この小説を読むと、昨今の学校を取り巻く複雑な事情が良く理解できる。また、教育には何が必要か、ということも。それは地道な努力、我慢や辛抱、そして子供たちにみせる大人の「本気度」だ。

前作を読んでいなくても、タイトルを見ただけでも、学校再建ストーリーだと分かる。様々な伏線が描きこまれた良い表紙イラストだ。小さな独立系のヤクザ組織である阿岐本組の代貸、日村誠司は学校が大の苦手。ストレスを感じつつも、厳しくも暖かい?上司(阿岐本のおやっさん)の指示の下、毎日登校する。物語に沿って、彼の心の景色も変わっていく。仕事に本気になると、周りの人たちも変わっていく。私たちサラリーマンの姿にも重なり、応援したくなる。

日村誠司の苦悩は、阿岐本組長の笑顔から始まる。無理難題を言われても、「この笑顔だ。」日村は思った。「この笑顔のためなら、何でもやりたくなってしまう。それが問題だ。」

組長は教育への考え方も持っている。「いいかい。今の教育ってのは、どこか間違っている。二極分化ってやつだ。このまま放っておいたら、人が支配する側と支配される側に、はっきりと分かれちまう。」

それにしても、この組長には、中々いいことを言わせている。「どんなに正しいことをやろうとしても、ヤクザがやれば悪いことになってしまう。世間の目とはそういうものだ。」「人の気持ちってのは、けっこう入れ物に左右されるんだよ。」阿岐本組長の名言録を拾ってみても、一つの作品ができてしまう気がする。

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