アジア大学ランキング首位!清華大学(2019福州_11)

2019年、英国タイムズ誌アジア大学ランキング、初の首位を獲得。中国の大学の最高峰と言っても良いくらいの名門大学。清華大学は北京市内では北西の方角に位置する、緑に囲まれた庭園をベースとした、理工系に歴史的に強みを持つ総合大学だ。

設立されたのは1911年。当時、義和団事件により外交官たちが大勢殺害され、その謝罪として清国がアメリカ合衆国に賠償金を支払ったが、この一部が変換され、そこから留学候補生を要請する学校が作られたのが、その始まりのようだ。米国向け留学準備学校。中心部から少し離れていて、地価も高くなかった、清和園(だったかしら)という大きな庭園の中に造成された。

その後は、中華民国設立、戦争、国共内戦や国共合作を経て、1949年の中国成立時には、立派な総合大学になっていたが、中国政府による大幅かつ大胆な大学構造改革により、清華大学は理工系を残して、本当に「バラバラ」に解体される。文系は北京大学へ。航空は天津大学や航空航天大学へ、その他も人民大学、地質大学等へと。その代わり、北京大学の理工系が移管されてきた。

中国の大学は、建国以前は、伝統を重んじて学問の真実を追究する、神聖な象牙の塔のようだったようだが、荒れ果てた国内事情を少しでも早く再建するため、建国に必要な農業や工業といった分野(まさに「四つの近代化」の4つだ)の発展に役立つ、実務的な人材の育成が、大学に強く求められていたようだ。こういった大転換も、一党独裁ならではの、チカラ技だ。

当時、中国と仲の良かったのは、ソビエト連邦だ。ソ連から技術者や研究者が招聘され、中国からもソ連へ研究者を送り込んだ。ソ連の専門的な技術者たちは、しばらくの間、建国当時の中国の発展に大きく貢献した。

同じ時期、建国直後の1950年代に、外国専門家局という政府部門(省クラス)が、国務院に設置された。これは、日本ではあまり聞いたことがないけれど、外国籍の専門家を集中的に管理、適材適所に配置する専門の省庁。昨年に科学技術部に統合されたが、長きに渡って、高度外国人材の、受け入れ窓口として機能してきた。毛沢東、周恩来、鄧小平ら党の歴代の最高指導層は、国外からの専門知識・学識の導入を重視し、自らも外国人専門家らと膝を突き合わせて、話をしたそうだ。

北京市内のやや北部、オリンピック記念公園の近くにある「外国専門家ホテル」は、その頃から存在する、由緒ある建物だ。建物の造りは古いが、それぞれの部屋は広く、調理できるキッチンや洗濯物が干せる屋内ベランダ、洗濯機の置き場もある。長期に滞在、生活できるホテルだったようだ。東芝のブラウン管テレビが、今でも各部屋で現役で動いている。難点は、天安門や王府井といった繁華街まで、かなり距離があることだろうか。「専門家は業務に集中してもらいたい」という、政府表明なのかもしれない。誘惑の多い繁華街からの遠さは、地下鉄が開通してからは随分と緩和されたけれど、実際に2回、宿泊したけれど、ちょっと不便に感じる。

学生のための実習室には、最新の3Dプリンターが並ぶ。

さて、清華大学の話に戻ろう。清華大学は一度は理工系科学技術人材の養成校となったが、1978年から「改革開放」政策の中で、逐次、人文社会科学関連の学科を増設して、現在の形の、総合大学として返り咲いている。土地面積が4,325,858平米、432ヘクタールということは、東京ドーム92個分の広さだ。すでに想像できない。前回の、福州大学の、2倍。構内には湖のように大きな池があったり、柳の木が揺れていたり、新緑の街道が延びていたりする。学生食堂やスーパーや何やら、必要なものは全て、大学内にあるので、留学生の話では、数週間、学外に出なくても生活が出来てしまう、という。スケールが大きい。

今回は、学内の研究室だけでなく、理工系学生向けの、技術研修センターを見学させてもらった。机上の学問だけでは、イノベーションにつながるアイデアは実を結ばない。実際に手を動かして、製品を形にする課程において、理系学生が学び取るものは、とても大きいという考え方をもっているようだ。広い作業スペースに、3Dプリンターが大小含めて30台は並んでいた。金属加工装置もあり、樹脂、金属、ナイロンなど、多様な素材で三次元加工が可能だという。

ケースに陳列してあったのは、理工系学生たちが研修で作成したという、スピナーだ。実際にどれだけ回転するのかは、触らせてもらえなかったから分からないけど、似たようなデザインは無くて、独創的なものばかりだった。3Dプリンターも、加工設備も、多くは清華大学を卒業したOBたちの企業からの寄付なのだそうだ(こういう寄付文化は、欧米では盛んだけれど、日本にはまだ根付いていないような気がする)。清華大学は、学生の間でも、起業が盛んなのだそうだ。スタートアップとしてサポートする仕組みが学内にあり、ウィーチャットを通した多くの先輩方や、近くには、有名な大型インキュベーションセンターである「中関村」がある。ここでは、産学連携という肌レベルの感覚は、日本の大学よりもずっと身近に感じられるのかもしれない。

清華大学は、先日に福州大学のときに紹介した「211工程」に加えて、さらに数を絞った大学支援プロジェクトである「985工程」にも、立派にノミネートされている。「98年5月に決めた、更なる大学支援」では、数はずっと少なく30大学程度だけれど、さらに1校平均で60億円程度の、追加的な財政支援がつぎ込まれている。「211工程」の時には、主にその資金は、学内設備の充実に回されたけれど、「985工程」では、それに加えて、学内制度の整備、優秀な人材の招へい、新たなる学問領域の創設といった、未来につながる建設的なソフトパワーへと投資されたそうだ(うまく説明できないけれど)。

清華大学の学生たちは、寮費が1年間で、日本円にして1万2千円程度なのだそうだ。食堂も1日当たり数百円でおなか一杯。とくに大学院生には、グラントから各種の研究費が支給されるため、それらは実質的な給金となり、生活のためにアルバイトをする必要が無い。学問、研究に専念できる、とても恵まれた環境にいるようだ。うらやましい限りだ。

設備の大半は、OBが経営に関わる企業からの寄付だという。

一方で、忘れてはいけない点だが、こうしたトップレベルの大学は、ほんの一部でもあるようだ。中国には2,800もの大学があり、約3,000万人もの学生たちがいて、入学率もすてに75%くらいにまで上がっている。一流大学以外の、いわゆる普通か、それより少し下がる学校では、就職するのも大変であり、寮費もさほど安くなく、食堂も、いまひとつ、なのかもしれない(それでも、街の食堂は十分に安くて、美味しい)。

李克強首相が、「大衆創新、万衆創業!(さあ、国民の全員がイノベーションに参加しよう!)」と呼びかけているのも、大学の卒業生たちの就職の場所を大企業に限定せず、あらなた起業や産業を作り、受け皿になってほしい、という気持ちが込められているそうだ。中国でも、やっぱり大企業のほうが人気で、小さな企業は、学生たちにも受けが良くないのだ。

首相が自ら、小さなスタートアップ企業を訪問し、若い社員に声をかけて元気付ける写真が、新聞紙(共産党の広報誌)の一面に掲載された。トップレベルの大学だけでなく、色々な大学も含めて平均的に見てみると、一般的な中国の学生たちが置かれている状況は、世界共通的なものがあるのかもしれない。だが、中国は人口が日本の10倍なので、そのスペクトルの幅が大きいので、一概に達観して「そんなものだ」ともいえないような気がする。

清華大学の学生は、在籍している間に、一人平均で2社から3社程度、スタートアップの立ち上げを経験しているようだ(聞いた範囲では)。スタートアップがベンチャー、ユニコーンへ成長する確立は非常に低いけど、まだ若い彼らにとって、失敗も含めた朝鮮の経験は、とても大きな糧になるのだろう。

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