喜多川泰さん作品 全19冊(前編)

「手紙屋」をはじめとする、喜多川泰さんの作品には、いつも元気をもらっています。本筋のネタバレに繋がる表現は控え、本の帯の文章や、アマゾンの紹介文から抜粋しつつ、心に残ったキーワードのいくつかを、ご紹介します。

賢者の書

賢者に転職するための必須アイテム?いいえ、作者のデビュー作です。主人公の少年は、「人生における大切なもの」を学び、「最高の賢者になりたい」と考えます。9人の賢者に会って学んでいきます。一章ごとに一人ずつの賢者との出会いを通して、少年は成長していきます。

まず、行動すること。成功や失敗といった結果は過程に過ぎない。今日の一日という時間を大切にすること。他人の幸せを思う気持ちが自身の幸福につながること。作者の作品のベースとなる考え方が、9人の賢者からの言葉として、丁寧に紹介されています。

全体的には、教科書的な、ちょっと固めの印象を持つかもしれません。本作を「人間味のある」ものにしているのは、冒頭に登場する中年男性、アレックスの存在です。仕事や生活、日々のストレスで悩むアレックス。「通勤電車を、会社と別の方向に乗ってしまう」ような行動(例えです)を取るようなアレックスには、同じサラリーマンとして、強い共感を覚えます(笑)

9人の賢者たちの言葉は、深みがあります。それぞれの言葉に対する解説コラムもあり、メッセージが頭に入りやすい工夫が見られます。一つ一つの「教え」は、作者の作風の根幹をなすような、とても貴重なアドバイスです。「伝えたい大事なこと」が一杯詰まった、初期の代表作です。

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出版時期:2005年1月31日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:224 ページ
書籍価格:1,320円 (kindle版なら期間限定で無料

君と会えたから・・・

心がけ次第で、未来は明るくできる!ということを、気づかせてくれる作品です。主人公「僕」は、一人の不思議な少女に出会います。「私たちの未来の夢」を実現するために、「僕」による、新しいチャレンジが始まります。

「私たちの未来の夢は、それに向けて情熱を絶やさず行動し続ける限り、必ず実現することが約束されている。」それを確率の低いものに変えてしまっているのは、「冷静な分析と称して行動をすることもなく、頭の中で繰り返される消極的な発想」と言います。とにかく情熱をもって行動することの重要性が主張されています。

夢を実現させるためのライフリストづくり。「円」(お金以外の意味)の、別の読み方や、その集め方。自分の内側に煌々と灯されている明るい光への気づき。夢とは、単なる職業への所属では無いこと。読み進めるにしたがって、可能性を信じ、前向きな考えを持つようになる自分に気が付きます。

昨日まで出来なかったという事実は、今日も出来ない理由にはならない。」あとがきによれば、作者の実体験を踏まえた物語のようです。「誰もが描けないような壮大な夢を掲げて、誰にも真似できないような素晴らしい人生を送ると決めて。」表紙のカバーや、ストーリーの合間に挿入された青空の写真が、爽やかで眩しい作品です。

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出版時期:2006年7月10日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:136 ページ
書籍価格:1,496円 (kindle版なら期間限定で無料

手紙屋 僕の就職活動を変えた十通の手紙

間違いなく、作者の代表作品です。今回のテーマは「就職活動」。学生の「僕」は、就職活動に出遅れつつ、大学4年生の春を迎えます。とりあえず始めようと考えても、中々身が入りません。そんなある日、書斎カフェで、奇妙な広告が目に入ります。「はじめまして、手紙屋です。

手紙屋の広告は続きます。「手紙屋一筋十年。きっとあなたの人生のお役に立てるはずです。私に手紙を出してください。」わずか10通の手紙をやりとりで、あらゆる夢を叶えてくれるといいます。著名人たちの体験文も掲載されています。「僕」は意を決して、1通目の手紙を書き始めます。

「出会い」の大切さに、改めて気付かされます。「僕」が偶然に入った喫茶店、目にしたポストカードの言葉、「手紙屋」の広告。それらの偶然?が重なって、「僕」は「手紙を書こう」と決めます。こうした偶然は、もっと私たちの周りに、転がっているのかもしれません。それに気づいて、大切だと思えたら、人生を豊かにできます。

お金のためではなく人のために働き、お金以上のものを受け取るという「物々交換」。いま目の前にあることに全力を注ぐことで開ける未来。世間一般にある就職観、会社観、仕事観に対して、本当の幸せとは何かという、新しい軸を与えてくれます。

手紙のやり取りを通して若者が成長する物語は、「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」(キングスレイ・ウォード)などにも見られる展開です(作者は「上京物語」で推薦図書の一つに挙げています)。ページに挿入された、団地や公園などの、何気ない日常の風景とメッセージが、心に沁みこみます。

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出版時期:2007年8月15日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:256 ページ
書籍価格:1,620円 (kindle版なら期間限定で無料

手紙屋 蛍雪篇 私の受験勉強を変えた一通の手紙

「手紙屋」の続編です。「どうして勉強が必要なのかな?」そんな全国161万人の女子高生(文科省データより著者推定)の疑問に、手紙のやりとりで答えます。勉強ハウツー小説としても高評価です。

私たち大人は、どのように答えられるでしょうか。「大学ぐらい出ておかないといい職業に就けない」とか、「生涯年収が下がるよ」とか。恥ずかしながら、将来の不安を煽る様な言葉しか思い当たりませんでした。それらが見当違いだということに、気づかせてくれます。

できることを増やしていけば、人生にもきっと意味が生まれる。そうなるには、ちょっとした意志の力が必要だよ。継続するには、想像力も利用しよう。」勉強は基本的に、毎日の継続が大事です。「家に帰ってから最初に座る場所で人生は変わる。」は名言だな、と思いました。

少しずつ勉強の習慣ができてからも、「手紙屋」は、気持ちは緩めません。「できるようになってからが、本当の始まり。」また、「勉強という道具を使うと、何が手に入る?」という現実的な問いも。大学生活、具体的な未来のイメージは、そこに向かって努力することを、楽しみに変えてくれます。

受験生の親の立場から(自戒の念も込めて)、つい思ってしまう「あなたのために言っているのよ」「自分が困らないように」という理屈が、見当はずれということにも、気づかせてくれます。

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出版時期:2007年12月28日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:252 ページ
書籍価格:1,620円 (kindle版なら期間限定で無料

福に憑かれた男

仕事とは何でしょうか。小さな本屋さんの経営物語を背景に、どんな職業であれ、それが何のために大事なことかということを、考えるきっかけを与えてくれる作品です。

脱サラして父親の本屋を継いだ主人公。経営規模の拡充を目指して情熱を注ぎますが、近場での大型書店の開店、コンビニの新設などが相次ぎ、やる気を失います。しかしそれらは、彼にとりついた「福の神」の仕業でした。「素敵な出会い」によって成長する主人公に、共感が持てます。

福の神が与えてくれるものは、「素敵な出会い」。「人間は僕たち福の神が信じられないほど早く成長することができる存在なんだ。」ピンチはチャンス。成長に必要な試練になる、といいます。

一方、「受け取る準備のできていない人に対して、数々の成功体験を経験させるのは、貧乏神がよく使う破滅へのプロセスです。」と言い切ります。子供の幸せを願うあまりに過保護になってしまう親心にも、「結果的にその人を幸せから遠ざけてしまうことにもなりますよ」という言葉。親としては、少し耳が痛いです。

「毎月自分は40万円、同僚が30万円」と「自分は50万円、同僚は100万円」の給料で、どちらが「自分は幸せだ。成功している。」と感じるでしょうか。自分が豊かであると思えるかどうかは、手にした富の大きさではない、といいます。

幸福の基準を他人との比較に置いていると本当の幸福を見失う、とも。「お金をたくさん稼ぐ」「会社を作る」「大きな家を建てる」といったことは、本当の夢を実現するための、単なる手段。考えるべきことは、「この人生を使って何をするか」ということだ、と言います。

この作品に先立って、2007年8月には、水野敬也さんのベストセラー「夢をかなえるゾウ」が出版されています。今から12年前、いわゆる「失われた20年」の真っ最中。ちょっと変わった神様の言葉が、時代の行き先に光を与えてくれるような自己啓発本が、ちょっとしたブームを迎えた時代でもありました。

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出版時期:2008年9月24日
出版社 :総合法令出版
ページ数:180ページ
書籍価格:1,430円 (kindle版なら期間限定で無料

上京物語 僕の人生を変えた、父の五つの教え

これから社会に出る若者に、読んでもらいたい作品です。今まさに上京して、楽しい大学生活を始めようとしている息子に、普段は無口な父親から送られた、一冊(!)の手紙。実りある人生を送るための心構えが語られています。

幸せとは、人との比較で決まるものではなく、幸せの基準を自分自身で決めること。他人の給料と比較して一喜一憂する日々よりも、「昨日の自分より一歩でも前進している」と感じられたとき、人は幸せを感じられること。

「失敗しないように生きる!」ということを、人生の目的にしないこと。誰よりも多く成功した人は、誰よりも多く挑戦した人であり、誰よりも多くの失敗を経験した人だということを、忘れないこと。

巻末に掲載している推薦図書リスト(「父から息子へ贈る本リスト」)は、とても参考になります。16作品(シリーズ物を累計すれば25作品)の図書、全て読みました。作者の本、お弟子さん?の本も含まれています。これはもう、本当に好みの世界ですが、浅田次郎さんの「壬生義士伝」とか、このリストできっかけを貰わなかったら、決して出会わなかったであろう名作でした。

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出版時期:2009年2月18日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:248ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

以上、6作品を紹介しました。

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