喜多川泰さん作品 全19冊(中編)

中期の6作品では、「出会いの大切さ」がテーマになっているようです。

本筋のネタバレに繋がる表現は控え、本の帯の文章や、アマゾンの紹介文から抜粋しつつ、心に残ったキーワードのいくつかを、ご紹介させてください。

心晴日和

珍しく、女子中学生が主人公です。14歳、28歳の「美輝」さんの視点から、ほんの小さな心がけで、幸せや不幸せを感じる気持ちがコントロールできること、絶望と希望は隣り合わせであり、人生がこんなにも奇跡に溢れていることに気づかされる作品です。

素直で優しい主人公が、悩みながらも前向きに考え、行動することで、状況をよい方向へ変えていくストーリーは、共感が持てます。他人の変化に期待するのではなく、自分を変えること。そしてそれは、他人にも影響していくこと。女性視点での仕事感、恋愛感、そして自立、といったテーマにも踏み込みます。

コロナ禍では尚更のこと、将来は「空白」です。空白の将来を「不安」で埋めるか、「希望」で埋めるか。不安で埋めた人は「安定」を求めて行動するようになり、希望で埋めた人は自分の可能性を信じて「挑戦」するようになる、と言います。作者は、自分から一歩踏み出す勇気を持って、自分の世界を広げようとする人には、必ず解決の糸口が与えられる、と言います。

この作品でも、言葉の力と、出会いの大切さが、力強く伝わってきます。悲観的な言葉を言ったり考えたり、それを一番近くで聞いているのは、自分である。それなら、たとえ今は気の会わなくても、その人が好きだ、幸せになってほしいと考えれば、そのように変わっていくといいます。「自分が頭の中で話している言葉が、今の自分を作っているのかもしれない。」

作品とは別の話ですが、私(このブログの書き手です)は学生時代に、台湾にある蘭嶼という島に住む少数民族の方にお世話になったことがあります。そこでは、「他人への悪口は諸刃の手槍」という考えがありました。他人の悪口を言でば、それは目に見えない手槍となって、他人の心臓に深く突き刺され、心は血を流す。その痛みは、槍を手にした人もにも同じく襲い掛かる。決して他人の悪口を言ってはいけない、と言います。言葉の力の不思議さを考えさせられます。

作者の作品の全体的な傾向でもありますが、「自分だけ幸せになればよい」という世界観を否定しています。自分は、周りの人々との係わり合いの中に存在します。むしろ自分のことよりも、人々が幸せになるように考えて行動することで、人は何倍もの力を発揮できる、と言います。そのように考え、行動できている人は、とても眩しいです。作者は主人公のネーミングに、それを体現できる、美しく輝く人であってもらいたい、という願いを込めたのかもしれません。

本作とは別の話ですが、友達付き合いでの悩み、という点では、女性の世界は、男性の世界よりもシビアなのかもしれません。私たち男子がヒーローごっこに夢中だったころ、女の子は人形遊びや「ままごと」で人間関係をシミュレーション、人付き合いの研究を始めていました(ちょっと言い過ぎかも)。女性にとっては、本作は、さらに大きな共感が得られるのかもしれません。

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出版時期:2010年2月25日
出版社 :幻冬舎
ページ数:190ページ
書籍価格:1,430円 (kindle版なら期間限定で無料

「また、必ず会おう」と誰もが言った。

人生の入り口に立とうとしている、高校生に推薦したい作品です。17歳の男子高校生が主人公。出会いを重ねることで、人としての成長を遂げる、作者が得意とする正統派ストーリーです。仲間内の会話の中で、ちょっとした弾みでついてしまったウソを弁解するため、一人でディズニーランドに向かうところから始まります。

ブックオフで220円で売られていることもあります。千円以上の価値はあると思います(それ以上!)。子供や両親にプレゼントしたので、最近、三冊目を購入しました(ブックオフ様、ありがとう)。

作品に登場するのは、「普通の人々」です。空港の土産物屋さんで働く中年のご婦人、長距離トラックの運転手。人との出会いという奇跡を、自身の成長の糧にできるかどうかは、心構え次第です。誰の人生にもありそうな日常的な風景の中で、若者の成長が綴られます。

本作のテーマは、人が生まれながらに持っている「生きる力」であると、作者は「あとがき」の中で述べています。積極的に行動する若者の姿を見ていると、人との縁、出会いの大切さを、再認識させてくれます。

「またかな」の愛称で愛される本作品は、2014年に映画化もされましたユーチューブでの予告編もあります。学校へのフィルムの無償貸与も行われたそうです。ちょっとコミカル仕立ての映画作品。小説とは、また少し違った味わいがあります。

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出版時期:2010年11月18日
出版社 :サンマーク出版
ページ数:215ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

母さんのコロッケ 懸命に命をつなぐ ひとつの家族の物語

副題は「懸命に命をつなぐ、ひとつの家族の物語。」主人公は「脱サラして学習塾を始めた40歳の男性」。あれ、これって、作者本人?志は高くも、家族を養う身。そこで彼は、不思議な場所に迷い込みます。不思議な飴との出会いは、家族の絆を再確認する、不思議な体験へと繋がります。

「 すべての子供は、大人に自分の使命に気づかせるという使命を持っている。」最初から強かった人間は、まれです。子供の寝顔を見ながら、幸せにしたい、と思うことで、信じられないほど強くなれる、と言います。前々作「心晴日和」から続く、人の幸せを考えることで、人は何倍もの力を発揮できる、という作者の確信を感じます。

未来への希望も大事ですが、今を精一杯生きることの大切さも語られています。人が直面しているものは、「今」という時間だけ。永遠に続く「今」という時間に集中することで、 生きているという実感が得られ、本当の幸せに繋がる、と言います。作者が推薦する図書の一つ、オグマンディーノ「この世で一番の贈り物」でも、繰り返し述べられている、大切なメッセージです。

学習塾を経営する、作者自身の言葉と思わる箇所もあります。「大人になって仕事をするようになると、大切なのは仮説と検証の繰り返しだ。学生時代に手に入れた、与えられた知識を入力する能力なんて、ほとんど役に立たない。新しいことを生み出すために仮説を立てる創造力と、それを実行に移す行動力。出てきた結果を検証する分析力に、そこから得た学びを使ってさらに新たな仮説を立てる継続力。」それを子供のうちから身に着ける塾を作ることができれば、きっと多くの人に喜ばれるだろう、と言います。

私見ですが、本作は「賢者の書」や「手紙屋」ほどには「人生へのアドバイスが豊富!」という感じではなく、ワクワクしながらストーリー自体を楽しめることができます。じんわりとした読後感を残してくれます。

一点だけ。母さんの「コロッケ」自体は、ストーリーへの関与が少ないような気がします。いわゆる「おふくろの味」は誰にとっても格別(嫁さんの料理も美味しいです!)。作者には思い入れがあるのかもしれません。(6年後に改題した新装版が出版されました。)

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出版時期:2011年9月9日
出版社 :大和書房
ページ数:248ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

スタートライン

今は息子の書棚に。amazonから画像を拝借します。

受験勉強という壁の前で立ち悩んでいる、高校三年生の男子高校生が主人公です。東京からの転校生(女子生徒)に心を奪われ、自分を変えていこう!という、ボーイミーツガール的な爽やかな青春ストーリーが始まります。

思い返せば、「手紙屋、蛍雪編」では、受験に悩む女子高生が主人公でした。その作品の中に、「人に興味を持つことで、「もの」を好きになることができる。」というフレーズがあります。好意を寄せている女の子から「講演会に行かない?」なんて誘われたら、行かずにはいられません。え、講演会?何か怪しいな、なんて考えない素直さが大事です(笑)。大きな夢を実現させた人たちの講演を聴いているうちに、主人公は、人生を真剣に考えるようになります。

「本気で生きる人には、必ずその夢の実現を応援する人が現れる。」と言います。これは作者の揺るぎない信念だと思います。後年の作品「運転者」では、さらに発展した考え方を紹介しています。最新刊も、ぜひご覧みください。(最新刊「運転者」紹介リンク

夢は探すものでもなく、そこらへんに落ちているものでもない。本気で何かに取り組んだ時に、そこに湧いてくるのが夢。損得を前提に考えて、儲かりそうな仕事に就くことや、現在の自分から逆算して妥当な職業を探すことを、きっぱりと否定します。

ところで、「手紙屋・蛍雪編」に、「できるようになってからが、本当の始まり。」という言葉がありました。高校生のみならず、何歳になっても、情熱を思い起こせる人の前には、いつだって真新しいスタートラインが一本、引かれているのかもしれません。

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出版時期:2012年7月14日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:240ページ
書籍価格:1,497円 (kindle版なら期間限定で無料

おいべっさんと不思議な母子

小学校六年生のクラスに、突然転入してきた、少し(かなり?)不思議な少年。バイタリティに溢れる「昔の子」は、周囲を少しづつ変えていきます。教育現場の抱える問題、モンスターペアレント、幽霊話まで登場する、ミステリー感のある作品です。

「生きる力」がテーマになっています。周囲の期待を背負いながら、いつのまにか「子供たちに失敗させないこと」が仕事になっていた教育現場(今野敏さんの「任侠学園」でも同じような指摘がされています)。「学校は上手にたくさんの失敗をするための場所その失敗からどう立ち上がるのか、どう克服するかを学ぶ場所。」ひとつの失敗もしない、誰ともぶつからないのが、子供にとっていい過ごし方なのでしょうか。

悪いことをしても見つからず、その場をうまく言い逃れて、それが楽しい経験になってしまう『不運な人』は、ずっと後になって、取り返しのつかない失敗をするまで気がつかない。」と言います。「本当に取り返しがつかない失敗なんてない。ちゃんと自分で受け取って、学ぶことができれば、新しい人生を歩み始めることができる。」

作品の中で大活躍するのは、どちらかといえば「子」寅之助君ですが、タイトルは「不思議な子」ではなく、不思議な「母子(おやこ、ははこ)」です。親世代の生き方にも、強いメッセージを投げかけています。「子供は、転んでも自分で立ち上がる力を持っている。多少の壁は自分で乗り越えられるはず。それを過剰に助けると、自分で立ち上がることができなくなってしまう。」親が子供にしてあげられることは、子供が成長すれば変わります。私たち親にこそ、向けられた作品なのかもしれません。

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出版時期:2013年1月9日
出版社 :サンマーク出版
ページ数:265ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

ライフトラベラー

人生を旅に例えます。ホテル、食事、見学先から土産物屋まで、すべてがパッケージになっているツアー旅行は「ストレスのない快適な旅」であり、「その旅行には不自由はないかもしれないけど、自由もない。」旅程に無いイベントには、不安を感じるようになります。

一方で、荷物は最小限、借りられるものは現地で調達し、むしろ出会う人に全てを土産に渡して、他の全部を貰えるような旅こそが「ほとんどすべてが自由な、不自由な旅。」ゼロをイチにできることがあふれている旅の途中で、たくさんの人に声をかけて握手をしていくような旅を想像した方が、の楽しみが増える、と言います。

「心晴日和」でも同じような一節が出てきました。何が起こるか分からない未来ですが、安定を求めれば不安を感じますが、挑戦すると決めれば、希望が心に灯ります。

明確な夢や目標が無くても、「今、目の前にやってきたことに、全力で取り組むこと。」目の前にやってくることに全力で取り組めば、楽しく感じて、その中からやりたいことが湧いてくる。「内側から湧いてくることものこそが夢」と言っています。

前々作「スタートライン」でも、「本気で何かに取り組んだ時に、そこに湧いてくるのが夢」ということが述べられていました。未来が現在の延長にあることを考えれば、「いまを生きる」ことの大切さが、再認識できます。

損得勘定で、何かを「やる・やらない」の基準にしてしまうと、自分で予想できるものしか手に入らなくなるよ」。先のことを計算して、得しそうな方向にしか動けなくなってしまったら、自分が予想もできないような、ワクワクした人生には、巡り合えない、と言います。

お土産論にも例えながら、心構えについて言及します。旅に出て、不自由な出来事に遭遇すると、いつも普通だと感じていたことへの感謝に気がつきます。貰えるものばかり考えずに、自分があげられるものをまず用意すること。経験だけを真の財産と考えれば、旅は更に魅力的なものに感じられます。

本作には作者の「あとがき」がありません。言いたいことを、全て伝えられたのでしょうか(笑)。「旅先で発生すること、全てを楽しむと決めて、旅に出る。」一途に前向きな気持ちで歩み始めた、その道の向こうには、青空が広がっていると思います。

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出版時期:2013年8月13日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:144ページ
書籍価格:1,430円 (kindle版なら期間限定で無料

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