喜多川泰さん作品 全19冊(後編)

後編7冊は、全作品から「家族の絆」が感じられます。

自分は何のために生まれてきたのか、幸せとはどういうことなのか。家族とは、何なのだろうか。未来の視点で考えるきっかけを与えてくれます。

本筋のネタバレに繋がる表現は控え、本の帯の文章や、アマゾンの紹介文から抜粋しつつ、心に残ったキーワードのいくつかを、ご紹介させてください。

One World

この世界は縁(えん)によって繋がっている、ということをテーマとした作品です。少年野球、恋愛相談、超能力者、就職活動から出稼ぎ労働まで、9つの短編に登場する、生き生きとした登場人物たちは、「出会い」という縁によって、少しずつ繋がっていきます。

各章には、人生の壁に出会い、迷いながらも、現状を変えていきたいと考える、前向きな気持ちを持とうとする主人公たちがいます。彼または彼女が出会う素敵な人物は、人生を良い方向へ変えようと思うきっかけを与えてくれます。目の前にいる人に渡したバトンが、より多くの人へと渡っていき、たくさんの幸せを紡いでいきます

あとがきには、「読み終えたら、もう一度、最初の話から読み返してみてください」と勧められています。主人公たちの素直な気持ち、人の話に耳を傾ける謙虚さが、新しい学びを得ることに繋がります。幸せの波紋が広がるようです。

好きだから大切にするのでは無く、大切にするから好きになるんだ。」という言葉に心を打たれる青年が登場します。歌手グループ「セカオワ」の歌詞「大事にしたから大切になった、初めから大切なものなんてない」というフレーズを思い出します。身近な人たちに対する感謝の気持ちの大切さが再認識できます。

短編ごとのストーリーで、全体としては長編ですが、読みやすい作品です。副題は「みんなが誰かを幸せにしている、この世界」。情けは人の為ならず、巡り巡って己がため、という言葉もありますが、誰かの幸せを思う気持ちの大切さを思い起こせるような作品です。

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出版時期:2014年10月22日
出版社 :サンマーク出版
ページ数:280ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

書斎の鍵 父が遺した「人生の奇跡」

2050年。少し未来の話です。会社員として大手医療機器メーカーで働く、やや疲れ気味の主人公のもとに、父親が亡くなった、という知らせが届きます。遺品として渡されたのは、鍵がかかったままの「書斎」でした。鍵を求める冒険が始まります。読み終えたころには、書斎を持ちたくなります(笑)

この書籍を手に取って、上から見てみると、ページの色が途中で違うのが分かります。真ん中だけがベージュ色で、フォントも異なります。この部分が、作品中の重要アイテム「書斎のすすめ」という本そのものです。「上京物語」のような構成ですね。

作品の中から例を挙げます。日本人は毎日、お風呂に入る習慣があります。さっぱりとした気分で一日を終えることができます。同じように、一日の終わりに良い本を読むことで、ストレスを洗い落とし、自分の位置を確認し、元気回復、リラックスして就寝することができる、と言います。10冊の本は「心の洗面台」、100冊の本は「心のシャワー」、1,000冊だと「心のお風呂」

描かれている2050年の未来世界では、ダイバーシティが広く認識され、互いの違ったところを受け入れる世の中であることが「常識」とされています。一方で、個人主義(というより利己主義)の行き過ぎも指摘しています。本作は、未来社会への警鐘のようでもあります。

「ひとつの物語を読むことは、自分ひとりしか知らない世界を旅したことと同じ」と言います。例えば、映像化された作品は、その映画を見た10万人が同じ映像を記憶しますが、本では想像力が働き、その人だけの世界が、読者一人ひとりに違った景色として広がります。自分の書斎に本を並べれば、背表紙の数だけ、自分だけが体験した世界が広がります。「寝る前に背表紙を眺めるだけでも、世界を体験した記憶が蘇る」と言います。

もしも、作品が「書斎のすすめ」だけで構成されていたら、「本好きによる上から目線のアドバイス集」という評価がされたかもしれません。会社員として日々の生活に疲れた主人公が(「賢者の書」も思い出します)、苦労しながら一つずつ「亡き父の思い」に近づこう、理解しよう、とする姿に共感するからこそ、「書斎のすすめ」の言葉は輝きを増すのかもしれません。

読書が好きな人、読書の大切さを勧めたい人、このスマホ時代に改めて「なんで紙の本を読むのだろう」と疑問を持っている人。「本を読む」ということに対して、色々な角度から新鮮な視点を与えてくれる作品です。

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出版時期:2015年6月3日
出版社 :現代書林
ページ数:264ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

株式会社タイムカプセル社 十年前からやってきた使者

先日、高校時代の友人たちと、久しぶりに飲み会を開きました。コロナ禍ですので、Zoomによる「Web飲み会」。はじめに画面に映ったのはオッサンたち(私も含む)でしたが、会話が進むにつれて、高校時代の若者の顔になっていくような気がしました。北海道へ単身赴任中だったり、背景で子供たちが騒いでいたり。10年前(もっとです)を懐かしく思い出しました。

タイムカプセル社は、「10年後の自分に宛てた手紙」を確実に配送することを請け負う会社。5人の主人公たちは、10年前の中学校の卒業式に、未来の自分たちに充てた手紙を受け取ります。当時の素直な気持ち、実現したかった夢、抱いていた希望。本作は、20代から40代の大人たちに対して、「新しい人生は、何度でも始められる。」というメッセージを贈ります。

世間を騒がすネット時代の誹謗中傷問題についても一言。「本人がその場に居なければ、その言葉が本人に届くかどうかをあまり考えもせず、つい、頭の中でふと思ったことをそのままに垂れ流してしまう、そういう弱さを持っている。」ネットの書き込みだって、初対面の人や、会ったことも無い人に「あなた、気持ち悪いんですけど」なんて平気で書いてしまう。「他人がどうこうじゃない。自分がそういうのを口にしない強さを持たなきゃいけない」と言います。

「良いことがあると、過去も変わる。」とも言います。つらい出来事を乗り越えられたから、現在の自分がある。そう思える日が必ず来る。マイナスに感じていた過去のイベントも、自分が成長するために必要な体験、学びの機会であった、と考えることもできます。「ああ、あれが私の人生の、ターニングポイントだったんだな」と思える日が来れば、素晴らしいですね。

「デビュー10年目の最高傑作」と記載があります。10年間を振り返って、今までの作品のエキスがギュッと詰まっています。私たち大人に向けられた、人生を再出発する勇気をもらえる作品です。

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出版時期:2015年11月19日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:351ページ
書籍価格:1,650円 (kindle版なら期間限定で無料

秘密結社Ladybirdと僕の6日間

高校三年生の主人公は、何となく中途半端な毎日を過ごしています。ある暑い夏の日、熱中症のような状態で、お洒落なバー「レディ・バード」に迷い込みます。昔に映画の中で見たような景色の中で、素敵な大人たちに出会います。ひと夏の不思議な経験は、主人公を変えていきます。

秘密結社というタイトルにワクワクします。340ページの長編です。主人公が自分の人生を創造していくだけでなく、それを見守る大人たちの物語でもあります。世間的な成功に至りつつも、新しい可能性に挑戦をしようとする大人たちの姿も、とても格好良く描かれています。

素敵な大人たちは、語ります。「仕事とは、他人との約束を守ること。勉強とは、自分との約束を果たすこと。」。ただ時間を消費するのではなく、相手や自分の期待すら上回るよう、ワクワクしながら取り掛かること。ツライと思うときがあるかもしれないが、それらは「本気の一日」の積み重ねだ、と言います。

レディバードとは「てんとうむし」の英語です。幼虫から成虫になるには、蛹(さなぎ)の期間が必要。「成虫になって、世の中を自由に飛び回るために必要なことを、未来視点で考えてみよう。今のこのツライ体験は、未来の自分にとっては必要な糧だったんだと思えるはず。」そんな未来の自分を、恋い焦がれるほどに真剣に想像して、少しでも近づきたいと思えれば、努力はツライ繰り返しではなく、遠方の恋人に会いに行くような、心の高揚を覚えるはず。

主人公は男子高校生ですが、登場する大人たちの一人ひとりにも、成長の物語があります。「自分との約束を守る大人になる。」ひと夏の物語が終わった後に、成虫になったてんとうむしは、どこへ飛び立って行ったのでしょうか。

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出版時期:2017年1月10日
出版社 :サンマーク出版
ページ数:341ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

きみが来た場所

2011年に大和書房から出版された「母さんのコロッケ」に、「アナザーストーリー:別の物語の始まり」が追加された、新装版です。前作をすでに読んでいるのでしたら、特に買い求める必要は無いかもしれません(ごめんなさい!)。

「きみが来た場所」という改題はよいと思います。家族のルーツを大切にする作品ですが、前作のタイトル「母さんのコロッケ」は、(個人的に)どうも本筋との結びつきが弱いかな、という気がしていました。

両親、祖母、祖父、と時代をさかのぼっていくと、10代前は1024人。30代前(織田信長の時代?)だと10億人という計算になるそうです。その中の誰か一人でも欠けていたら、今の自分は存在しなかっただろう、と言っています。それぞれの時代を精一杯に生き抜いて、今の自分につなげてくれた家族たちに対する、感謝の気持ちが込められています。

タイトルは「君が来た場所」ですが、副題として「Where are you from? Where are you going? 」とも記載されています。「君が来た場所、そして向かう場所。」バトンは次の世代へと渡されていきます。追加された「アナザーストーリー」には、そんな青年の姿が描かれています。青年は、「またかな」に出てきた「他人のメガネ」を外せるような素敵なきっかけに、巡り合えるのでしょうか。

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出版時期:2017年1月26日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:260ページ
書籍価格:1,650円 (kindle版なら期間限定で無料

ソバニイルヨ

中学一年生の主人公は、勉強が大嫌い。些細なきっかけで親友とも疎遠になってしまい、部活にも身が入らず、漠然とした不安、不満を感じながら毎日生活しています。そこに現れたのが、米国出張前に父親が作ったヘンテコなロボット「ユージ」でした。

中学一年生という多感な時期を迎えた少年の様子が、とても生き生きと描かれています。彼が投げかける疑問に対して、一つずつ丁寧に答える「ユージ」。魂の重さ、夢の実現可能性。ロボットらしく、あまりにも理屈的、理系的な発想でアドバイスをすることもありますが、それが却って、不思議と作品に温かさを加味しています。

二人は一緒に成長します。まるで兄弟のよう。「ユージ」はAIなので、会話を重ねるにしたがって、受け答えも人間らしくなり、だんだん賢くなっていきます。そしてプログラムどおりに、主人公、そして私たち読者に対して「大事なこと」を教えてくれます。

必要最低限を超えないと損」という言葉。勉強の時間は浪費にもなれば投資にもなる、と言います。中学生に平等に与えられた授業時間。真剣に聞くか、適当にやり過ごすか。必要最低限を超えた分の勉強には、不思議と身が入ります。これは私たち大人の「仕事」にも当てはまりそうです。「人生」と言い換えることもできそうです。

賢すぎるAIに対する警鐘も語られています。本作には「あとがき」がありません(ないのは「ライフトラベラー」と本作くらい)。もし「あとがき」があったとしても、涙で目がかすんで、読めなかったかもしれません。作者の配慮を感じました。。

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出版時期:2017年12月9日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:278ページ
書籍価格:1,540円 (kindle版なら期間限定で無料

運転者 未来を変える過去からの使者

最新刊です。「なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ」と思わず独り言をつぶやいた中年男性。ふと目の前に、タクシーが近づいてくるのに気が付きます。本書の帯には「運を転ずる者からのメッセージ。」があります。

家族の絆、生まれてきた意味、損得にとらわれない、本当の幸せな生き方。作品では、今までに作者が述べてきたことが、ギュッと詰まっています。

運は「いい」か「悪い」で表現するものではなく、「使う」「貯める」で表現するもの。運は後払いで、何もしていないのに、いいことが起こったりは、しないもの。人生のターニングポイントに気が付くために「上機嫌でいることの大切さ」が語られます。

仕事、家庭、両親、そして夢。多忙な日常の中で、ついため息が出がちな中年男性(私もです)に、ぜひ読んでもらいたい作品です。

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出版時期:2019年3月28日
出版社 :ディスカヴァー・トゥエンティワン
ページ数:239ページ
書籍価格:1,650円 (kindle版なら期間限定で無料

最後に。主人公の年齢と性別を要素にした、喜多川泰さんの作品一覧です。(すみません。私が勝手に作ったものです・・・)もちろん、主人公の性別にかかわらず、どの作品も、まるで自分のためのストーリーのように楽しめます。前半は若者向け、後半は社会人向け、といった作品が多いような気がします。長寿社会を迎えた日本ですので、特に高齢者も明るい希望が持てるような作品も、期待したいです。

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