One World 喜多川泰

 

この本に登場する人物たちのように、他の人に幸せを渡せているのだろうか。そんなことを思い返すきっかけとなる。

一つ一つの短編集が、登場人物たちの「素晴らしい出会い」によって繋がっている。副題は「みんなが誰かを幸せにしている、この世界」。各編には、人生に迷いながらも現状を何とかしたいと考える前向きな主人公がいる。彼または彼女が出会った素敵な人物、または人生を良い方向へ変えようと思うきっかけを与えたくれた人物がいる。しかし、その立派な人物も、最初からそのような立派な考えを持つ人では無くて、過去に別の人物との出会いを通して、悩みながらも、人間としてより成長するという経験をしていた。目の前にいる身近な人に幸せを渡すことで、そのバトンは多くの人に渡され、繋がっていく様子が描かれている。

それぞれの短編集は独立した読み物となっているが、物語を読んでいく順番は重要だ。全体を通して読んでも長いストーリーでは無いが、一区切りずつ休憩を入れながら読み進めた方が、より深みを感じる。あとがきにもあるように、もう一度、最初の話を読み返すことになった。幸せは波紋のように広がる。共通しているのは、主人公たちが素直な気持ちを持っている、または持っていたいと思っていること。人の話に耳を傾ける謙虚さが、新しい学びを得ることに繋がっている。主人公たちの成長の物語でもある。

「好きだから大切にするのでは無く、大切にするから好きになるんだ。」という言葉に心を打たれ、自分の通う大学の掃除を始める主人公。歌手グループのSEKAI NO OWARI『Hey Ho』の歌詞「大事にしたから大切になった、初めから大切なものなんてない」を思い出す。忙しい日々の中で忘れてしまいそうな、身近な人たちに対する感謝の気持ちを、あらためて大切にしたいと思った

タイトルとURLをコピーしました